今回は、読者さんからの相談です。 まったく役に立たない私の回答に、乞うご期待。「失われた私」を探して(45)
中村うさぎさんが読者の人生相談に答える企画、始まります。今回は何にも夢中になれない、「あはさん(34歳)」のお悩みです。

公開日:2026/03/05 10:07
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「失われた私」を探して人生に「正解」なんてない。
「正解」なんかに囚われたら、一歩も動けなくなってしまうの。
今回から、読者さんからのご相談事を取り上げていきたいと思います。
たぶん毎回ではなくて、普段のエッセイの回と織り交ぜて。
ただ、あくまで私の個人的意見なので、「これが正解なんだ」などと思わないでね。
そもそも、人の悩みの大半には「正解」なんてないのよ。
人生に、正解はない。
正解は、自分で作るの。
私たちは生きていくうえで様々な選択を迫られるけど、その時点で「何が正解なのか?」を考えてしまうと、何も選べなくなって立ち止まってしまう。
だって「正解」なんて誰にもわかんないもの。
で、立ち止まっている間に事態はどんどん変化して、後戻りできなくなる。
じつは私、それが一番の悪手だと思ってるのよね。
何故なら、「自分で選んだ」という自覚がないと、自分で責任取る気になれないから。
私は自分の人生に責任取りたいし、「自分で選んだ」という自負を持ちたい。
だから、選択を迫られた時点で、直感でもいいし熟考の末でもいいから、とにかく自分で答を出す。
そして、それが正解になるように努力する。
それが「人生を構築する」ということだし、私たちにできるのはそれしかないと思うのです。
じゃあ、何のために他人の相談に答えるのか?
それは、「こういう考え方もあるよ」と、別の視点を提供したいから。
私も含めてだけど、悩んでる人って視野狭窄になりがちなのよね。
だから、袋小路に陥ってしまう。
その暗い暗いトンネルに、ほんの少し横穴を開けられたらいいな、と思うからです。
うまくいくかわからないけど、とりあえず、そんな気持ちでトライしようと思います。
ではさっそく、「あはさん(34歳)」のお悩み(原文ママ)です。
何にも夢中になれないし、だらだらと無為に過ごす日々。
私、このまま中途半端な人生でいいの?
色々やってきたが、何もかもしっくりこない。
続ければいいんだろうが、仕事などは人的なストレスが加わると逃げ出すように辞めてしまう。
前は趣味も色々あったけど、めんどくさくてやらなくなった。
本も漫画も相当面白くないと集中して読めない。
面白くて何度も読んで暗記したと思い売った本も、今は全く記憶にないが買い直しても読まないと思う。
今までは最悪親がいると思ったが、親もじじばばになり自分も気力体力が失われてきた。
たまに一万円かそれ以下の服や靴がほしくなったり、美味そうな店に入りたくなったりして、その時だけ頑張ろうと思うがそれだけ。
最近は身体本体が衰えている上にちゃんと毎日働いてないのに服だけ綺麗でもしょうがないんじゃないか、という気もしてきた。
美味そうなおしゃれな店に入っても、なんだこれっぽっちかとか、値段の割にぼやけた味だなと思い、安い店にはいるとなんかがちゃがちゃしてうるさいなと思う。
なんかものすごく何かに突出していて何かに欠落していたりする人がいいなと思って中村うさぎ氏を見てしまう。自分はずっと自転車操業でプラマイゼロの線をふらふらしていて、たくさん借金したり部屋がものすごかったりするのを隠していなくていいなと思う。極端に振り切りたいが勇気がなく、半額弁当なんて複数買ったっていいのに、変な恥じらいもあり、いつまでもうだうだ悩んでいる。全く仕事しないこともできず、中途半端にアルバイトに行く。結婚もしていないのにバイトなので、一部の人に怪しまれている。
前はアルバイトして、余暇で何か作って遺したいという気があったが、最近は何もしていない。目先の食欲と物欲だけ満たして、携帯見てごろごろしている。携帯も、すごく面白いわけじゃないが別に他に面白いことがあるかというとそうでもない。
これと言って何も作っていない上にちゃんと社会に参加してお金を稼いでいなくて、これからどうすんだろ、やる気にならないということは、結局こういう中途半端なのが私の人生なのかな、とも思う。
人に聞くことじゃないんでしょうが、人に話してみたくなりました。よろしくお願いします。
あなたは中途半端じゃありません。
この世界には珍しい自由な人なのだと思います。
何もやりたくないし、何にも興味が持てない……その気持ち、よーくわかります。
私にもそういう時期がありました。
ベッドの中でゴロゴロしながら「このまま人生終わっちゃうのかなぁ」なんて、ぼんやりと思ってた。
でも、だからってやる気も起きないし、どうしようもない。
あはさんは私のこと、常にハイテンションで生きてるように思ってるみたいだけど、それは私の作品から受けた印象でしょ?
だって私、テンション低い時はエッセイ書けないもん。
したがって、エッセイには書かれていない人生も、私にはある。
いわばその日陰の部分は、今のあなたと同じ状態ってわけ。
ね、誰もが常に生き生きと輝いて、人生を謳歌してるはずがないじゃない?
あなたみたいに「あー、つまんねー。人生、なんにもねー」と思いながら生きてる人の方が多いような気もする。
仕事や子育てに追われてるような人でも、ただ忙しそうにしてるだけで、じつのところ心にぽっかり穴が空いてる人は大勢いる。
その人たちは「やらなきゃいけないこと」が目の前にあるので、とりあえず忙しいだけなのよ。
仕事がなくなったり子育てが終わったりすると、たちまち、あなたのように空虚さに呑み込まれてしまう。
つまり、人間って基本的に「虚しい」生き物なんですね、たぶん。
その虚しさから目を逸らすために、私みたいに依存症になって自ら地獄に堕ちたりする愚か者もいる。
一方で、仕事や家族という真っ当な生き甲斐を求める人たちもいるけど、労働だって結婚だって子育てだって、人類繁栄とか社会への貢献なんて大層なものじゃなく、要するに「やらなきゃいけないことがないと虚しくて生きていけない」人間たちのために社会が用意したプログラムなのかもしれない。
だからあなたは、みんなが必死で見ないようにしてる根源的な問題を、今まさに目の当たりにしてるんですよ。
凄いじゃないか、それ。
私のような凡人は、「何者かになりたい」という願いに汲々として生きてきたけど、あなたの驚くべきところは「何者にもなる気がない」というスタンスだ。
「何者かになりたい」という自己実現願望は、社会の枠内でないと生まれ得ない欲求だから、あなたは社会に組み込まれない稀有な存在だとも言える。
他の人たちはうっかり、あるいは無理やり、社会に組み込まれちゃってるの。
その結果、仕事や家族に繋がれて、あくせくと不自由に生きている。
その点、あなたは働く必要もなさそうだし、家庭を持ちたいとか何者かになりたいとか、そんな俗世の欲望にも汚染されていない。
つまりそれ、真の意味での「自由」だよ。
そして、自由だからこそ、あなたは途方に暮れてるんだ。
何故なら、自由とは孤独であり虚無であり続けることだからね。
あなたは中途半端なんかじゃない。
誰よりも自由なのです。
誇りなさい。
そして、その孤独と虚無を甘んじて受け容れなさい。
それが、あなたの生き方なんだ、きっと。
まぁ、人生は何が起きるかわからないから、いつかあなたにも猛烈に欲しいものが出て来るかもしれない。
その時はその時で、欲まみれの人生をスタートさせればいい。
そんなものがついに現れなければ、そのまま自由に、ふらふらと淡々と生き抜けばいいんだ。
生まれて来たからには何かを成し遂げねばとか、目標や生き甲斐を持たなければとか、そんなものは幻想です。
社会があなたを組み込んで歯車にするためのプロパガンダです。
何のために生きてるかなんて考えず、ただひたすらに大海を回遊している魚のように、自由に生きてください。
ね、私なんかに相談すると、こんな結論になってしまう。
でも、これもまた数多ある視点のひとつなのです。
何を自分の視点とするかは、あなたが決めること。
そして決めたからには、それを自分の「正解」にすればいいのよ。
【中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談募集】
中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談を募集します。「失われた私」を探してで扱うテーマに絡むお悩みがありましたら、担当編集の岩永宛(info@addiction.report)に、【1】お名前(ニックネーム可)【2】年齢(掲載時にこちらでぼかします)【3】相談内容(400文字以内)を書いてお送りください。医療相談や経済相談は受け付けておりません。この連載で回答を掲載します。
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