普通に生きられないすべての人に。 「普通」を捨て、「正しさ」を捨てて、自分のために生きてください。「失われた私」を探して(50)
連載「『失われた私』を探して」も50回となりました。今回は、正しくあろう、普通になりたいと願って生きてきたけれど満たされない、まんまるさん(31)からの悩み相談に答えます。「正しく」なんて生きる必要はないんだ。

公開日:2026/05/21 01:00
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「失われた私」を探して正しくなんて、生きなくていい。
間違えることで救われる人生もあります。
記念すべきかどうかはわかりませんが、この連載も50回目となりました。
だからって、特別な原稿を書くつもりはありません。
今回は、読者さんからの人生相談第3弾です。
ご相談者は、31歳の「まんまる」さんです。
保守的な家庭で育ち、幼少期から「正しくあろう」と生きてきました。
学校や社会の規律を守り、先生や上司からの評価も高く、自他ともに認める生真面目な性格です。
曲がったことが許せず、自分にも他人にも厳しく、10代の頃からメンタル疾患を抱えてきました。
不登校や休学、うつによる退職などを経験し、普通の人が当たり前にできることが、私にはできないということに苦しんできました。
私はずっと普通になりたかった。だから、結婚して子供を産みました。
子供がいて幸せなはずなのに、夫とは気持ちがすれ違うことが多く、どこか満たされない思いを抱えています。
ずっとがんばっているのに報われない。
「正しさ」から自分を解放するには?
また、人生観が変わるとは、どのようなことなのでしょうか。
そういう出来事にまだ出会えていないだけなのか、それとも私自身がそれを受け止める力が足りないのか…...
何かアドバイスをいただけると幸いです。
まんまるさん、「正しくあろう」という心がけはご立派だと思うのですが、私は大いに疑問です。
そもそも「正しさ」って何でしょう?
まずは、あなたの「正しさ」について検証していきましょうか。
ずっと普通になりたかったから、結婚して子供を産んだ。
その「普通」というのが、あなたにとっての「正しさ」だったのですか?
ならば、何故、あなたはそんなに息苦しいんでしょう?
あなたにとって、「正しくなかった」からではありませんか?
みんなのやってることが、自分にとって「正しい生き方」とは限らないのです。
「正しさ」なんて、人それぞれなんですよ。
「普通=正しい」なんて法則はない。
「普通」というのは、単に「マジョリティ」という意味でしかありません。
あなたは自分が「普通じゃない」ことに苦しんできた。
普通の人が当たり前にできることが自分にはできないから。
でも、「普通=正しさ」ではないのですから、普通にできないあなたが「正しくない人間」ってわけではありません。
私も発達障害だったので、子供の頃から普通の子ができることができなかったりしたし、そのことで「自分は何か間違ってるのか?」と、よく脅えたものです。
だから、あなたの不安はよくわかるの。
でも、普通の子がいつも正しいわけじゃないでしょう?
普通の子が平気で弱い者イジメをしたり人を妬んだりしてるのを見ると、なんだか普通であることがあんまり羨ましくなくなりました。
むしろ「自分は普通」「自分は正しい」と思い込んで自信満々に生きてる人ほど、視野が狭かったり不寛容だったりして、私の目には歪んでるように見えます。
彼らの「正しさ」は、私の「正しさ」ではない。
そこで、「普通の正しさ」と決別することにしました。
そしたら、すごく自由になったよ。
あなたに必要なのは、まず、いろんな「正しさ」を知ることだと思います。
自分の「正しさ」、世間の「正しさ」にしがみつかないでください。
普通の人の「正しさ」があなたの「正しさ」ではないように、あなたの「正しさ」だって他の誰かにとっては「正しさ」ではない。
では、どっちが正しいのか?
どっちも正しいし、どっちも間違っているのです。
つまり、「正しさ」という物差しは万能ではない。
正しいかどうかなんて、じつは、どうでもいいんです。
そうなると、「正しさ」という尺度で自分や他人を測るのではなく、もっとおおらかな目で世界を見渡せるようになる。
あなたの言う「正しさからの解放」とは、そういうことだと私は思う。
道を踏み外したって、いいじゃないか。
それは、別の道を見つけるためのルートなんだよ。
とはいえ、私がこんなことをつらつらと述べるまでもなく、あなたはとっくに気づいているのですよね?
自分の中の「正しさ」なんて意味ない、ってことに。
あなたが別のペンネームで送ってくださった相談メールも、私は読みました。
そこには、貞操観念の強かったあなたがついに夫との関係から逃げ出して、SMの世界で知り合った別の方と関係を結ぶようになったと書いてありました。
そしてそのメールでも、あなたは苦しんでいた。
「良い妻、良い母でありたい」と思いながらも、そう生きられない自分に。
自分でも何がしたいのかわからない、身動きが取れない、と。
あなたが何をしたいのか、他人である私にはわかりかねますが、ひとつだけ言えることがあります。
正しくないことを、しなさい。
正しく生きる必要なんかない、理想の自分なんか捨てちまえ。
夫から責められるかもしれない、子供から嫌われるかもしれない。
でも今は、夫や子供のためではなく、自分のために生きるんだ。
そのために嘘をつく羽目にもなるでしょう。
あなたは嘘が嫌いだから、人一倍、苦しい想いをするでしょうね。
いいんですよ、自分のために苦しみなさい。
他人のために苦しむ必要はないけど、自分のためならば苦しむことには意味があります。
苦しみの中から、自分が見えてくるからです。
人はね、自分を産み落とすために苦しまなくてはならない時があるの。
今この時に苦しまなくては、あなたは一生、何者にもなれずに終わってしまうの。
正しくないことをする自分、嘘をつく自分、夫や子供の期待を裏切る自分……それが「あなた」なんですよ。
目指してた理想には程遠いでしょうし、そんな自分を到底許すことなどできないでしょう。
でも、それが「あなた」なんだ。
受け容れなさい。
「生きる」とは、そういうことだと私は思います。
受け容れ難い自分と対峙すること。
自分のために、あえて間違いを犯すこと。
そして、罪深い自分を赦すこと。
私たちは、自分を救うために生きてるんだ。
だから、あなたはあなたを救いなさい。
苦しんで泣きながら、必死で自分を救うのよ。
それにはきっと結果が付いてくるから。
望んだ結果ではないかもしれないけど、少なくともあなたは変わるはず。
今とは違う自分を生きる覚悟ができるはずだよ。
安心してください。
道を踏み外しても、人は別の道を見つけることができる。
大事なものを失っても、もっと大事なものが手に入る。
「依存症」に苦しんだ人々は、そういう体験をします。
まさに、「人生観が変わる」体験。
地獄の底に、救いがあることを知るのです。
あなたもその苦しみの果てに、正しく生きていては決して見つけられなかった扉を開く日が来ると、私は思います。
それが、あなたの「救済」の瞬間、「生き直し」の第一歩なのです。
自分を信じてあげてね。
そして、間違えながら躓きながら、全力で生きてください。
きっと、あなたは救われるから。
【中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談募集】
中村うさぎさんに答えてもらいたい人生相談を募集します。「『失われた私』を探して」で扱うテーマに絡むお悩みがありましたら、担当編集の岩永宛(info@addiction.report)に、【1】お名前(ニックネーム可)【2】年齢(掲載時にこちらでぼかします)【3】相談内容(400文字以内)を書いてお送りください。医療相談や経済相談は受け付けておりません。この連載で回答を掲載します。
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