大阪カジノ計画に三つの疑問——立ち止まって再考する時だ
5月14日から20日まではギャンブル等依存症問題啓発週間。日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)が2030年、大阪に開業する予定です。長年、新聞社で取材を続けてきたベテラン記者が、三つの疑問を提示し、計画の再考を求めます。
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公開日:2026/05/19 01:31
5月14日から20日まではギャンブル等依存症問題啓発週間。
日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)が2030年、大阪に開業する予定だ。大阪・関西万博が開かれた大阪市此花区の人工島・夢洲には、高層ビルなどの建設が進む。だが、ギャンブル依存症拡大への不安は尽きず、国際情勢の緊迫化で目論見通りのにぎわいや経済効果が見込めるのかにも、不透明感がただよう。なぜいまカジノか。三つの疑問を指摘し、計画の再考を求めたい。
4月末、夢洲では万博の象徴の大屋根リングなどの解体が進む一方、すぐ近くで何本ものクレーンがうなりをあげていた。事業者の「MGM大阪」が市に提出した建築計画概要書によると、カジノが入るビルは地上27階建て。翼のような曲線の構造は、米ラスベガスのカジノホテル「ベラージオ」を思わせる外観だ。メインホテルは約1830室の2割以上がスイートルームで、VIP向けホテルの部屋にはプールもできるという。
市と大阪府は2026年度の当初予算案で、IRの事業化推進費として約1億2000万円を計上し、駅のポスターやネット広告で盛り上げをはかる。
巨大リゾートの予想図が描かれる一方で、計画が予定通りに進む保証はない。
過大?な集客見込み
まずその集客の見込みだ。
来場者は年間2000万人と想定される。大阪・関西万博は約半年間で約 2,600 万人が訪れ、単純に1年に換算すれば約5200万人となる。あの大混雑した万博の半分近くの人数が毎年、IRを訪れなければ目標は達成できない計算だ。
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今年1月、大阪・難波で開かれた住民説明会では、真っ先にその点に質問が出た。
「あれだけ混雑した万博の半分ぐらいの人数がくる事態を想定しないとならない。本当に可能なのか」。数字が甘すぎるのでは、という素朴な疑問だ。
これに対し府・市の説明者は2,000 万人を「慎重に検討されたもの」としたうえで、「妥当と認識している」と強調。「外交関係の緊張の高まりから、中国で渡航控えがあった」ことを認めつつ、「1年を通してみるとインバウンド全体で2025 年は 4,200 万人を突破し、過去最高だった」と、なぜか日本全国の数字に話を広げ、IRの集客から話題をそらした。これでは疑念の解消につながらない。
考えてみたい。大阪万博は外国人客を12%と想定していたが、実際には 6%にとどまった。IRでは全体の30%にあたる600万人を外国客と見込み、相当ハードルが高い。
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化していることに加え、米国とイスラエルによるイランへの攻撃など、国際情勢の先行きは予断を許さない。海外の観光需要に影響が出るのは必至だ。当初の計画に固執している場合ではないだろう。あてがはずれれば、むだな出費のツケは国民に回ってくることを忘れてはならない。
中国資本の影?
疑問のその2は、事業者の責任体制に不透明感が漂うことだ。
IRの事業者は昨年5月、社名を「大阪IR」から「MGM大阪」に変更すると発表した。ラスベガスのカジノホテル「MGMグランド」などを運営する米MGMリゾーツ・インターナショナルの知名度を生かすためだという。
そもそも大阪IRは、MGMの日本法人とオリックスが約41%ずつ出資、パナソニックホールディングスや鉄道大手など、関西を中心に22社が残りを出資し、船出した。区域整備計画の認定時の社名も「大阪IR株式会社」だった。資本構成は変わらないのに、なぜ在阪企業が主導権を握るイメージの名を捨て、MGM色を前面に出すのか。
たしかにMGMは世界30か所以上でカジノやホテル、劇場などの総合レジャー施設を運営する大手エンタメ企業だ。しかし近年、カジノ事業の売り上げは、国によって差があるのが実情だ。
グループ内にはマカオでIRを展開するMGMチャイナがあり、この会社はカジノの売上が90%を占める。中国資本がMGM大阪の運営を実質的に担い、日本でのカジノ運営に本腰を入れるのではないかーー。
昨秋の住民説明会で、一部の報道をもとにこんな趣旨の問いが出た。しかし府と市の回答はあっさりしたものだった。社名変更の理由はあくまで国際的に認知度のあるMGMを冠するためだとし、「採用活動やマーケティングに活かすためと理解してほしい」と説明。中国資本の参入については「承知しておりません」と述べただけだ。
普通に考えると、MGMグループ内の人事異動もありえる。「初上陸」となる日本を標的に、節度のない、賭博性の高い運営を始める恐れは本当にないのか。
大阪IRの売上は約5,200億円を見込む。うちカジノが4,200億円、非カジノが約1,000億円と、カジノが約8割を占める。当然、客の負け額が大きいほど事業者が潤う。誰がカジノ運営を主導し、責任の所在をどこに置くのか。住民の不安を払拭するには、言下に否定して終わるのではなく、事業者と行政の双方が、もっと丁寧に説明する必要があるだろう。
「ギャン太郎」の背景
三つ目の疑問は、ギャンブル依存症への対策だ。
依存症対策の目玉の一つと目されるのが、国内初という「依存症対策センター」の設置だ。先日、府がとりまとめた「第3期大阪府ギャンブル等依存症対策推進計画」によると、センターは「相談、医療、回復へのワンストップ支援」や「人材養成」にとりくみ、オンラインでの相談、支援団体とのネットワークの構築に加え、休日や夜間でも相談できる体制にするという。医師や心理士ら専門職を養成するため、実証的な施設をまずつくり、IRが開業する前の29年度には開設する計画だ。
既存の精神保健福祉センターと異なり、治療に至る前の段階も対象とし、医療、福祉、司法や支援団体につなぐ役割も担い、「依存症対策のトップランナー」をめざすという。
だが、中身は抽象的で、設置場所すら未定。カジノ開業のためのアリバイづくりととられないためには、早急に具体化する責任がある。
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もとより行政の本気度を疑わせる「事件」を、忘れるわけにはいかない。
依存症対策として、府と市は今年1月、若者向けに啓発動画を作成したが、その内容があまりにお粗末だった。動画は主人公の高校生「ギャン太郎」が「ラクして生きる人生見つけた」などとオンラインギャンブルにはまり込む。桃太郎の鬼退治になぞらえ、自分の中の鬼と戦うという、軽いノリのアニメだ。
「ラクして生きる」「依存症=鬼」――。こうした設定は、依存症になる人は怠け者という誤解を助長するだけでなく、意志が弱いせいだと決めつけ、自己責任、根性論で克服できる、といった誤った認識を広げかねない。公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」から指摘を受け、結局、公開から一週間で停止に追い込まれた。
依存症は脳の機能不全に伴う病気である。動画の公開は、府と市の認識の甘さを露呈しただけでなく、誘致の資格そのものを疑わせる失態だった。IR事業認定のため区域整備計画を国に提出した際、実効性ある依存症対策は選定の条件だったのを忘れたのだろうか。
あらためていう。カジノで4200億円を稼ぐにはそれをはるかに上回る額の賭博行為が必要で、その過程で多くの依存症患者が生まれる恐れがある。借金を抱えて自殺したり、仕事を失って横領や盗みに走ったりする人が出る可能性すらある。
「経済の起爆剤」に、と自治体トップはいう。一方で関西では毎月のようにカジノ誘致に反対する人たちが各地で集会を開いているほか、夢洲の土地の貸与価格や地盤改良の公費負担を巡り、市民らが「不適正」だと疑問を提起し、訴訟が続いている。
他人の不幸を踏み台にするようなビジネスを行政が奨励するのは、きわめて危うい。最も確実な依存症対策は、新たなギャンブル施設であるカジノを造らないことだ。
