傷つけ合うのが怖くて人間関係を避けてない? でも、傷を回避し続けると、永遠に他者も自分も愛せないよ。「失われた私」を探して(46)
若い頃から痴漢など性的被害に遭い続け、男性不信に陥った私。気がない男性は拒絶し、遠ざけてきたけれど、それがもしかして男性を傷つけたこともあったかもしれない。でも、傷つけ合った先にわかることだってあるんだ。

公開日:2026/03/20 02:00
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男に傷つけられ、男を激しく憎んだ時期もあった。
同様に、女に傷つけられて女を憎む男たちもいる。
私は女に生まれ、女として生きてきたから、男の気持ちはよくわからない。
もちろん、男女問わず共通する部分はたくさんあるから、そのあたりは共感できるのだが、男として生きてきた彼らがどんな鬱屈や苦しみを抱えているのかという「男ならではの気持ち」に関しては、ただ想像することしかできないのだ。
女として生きることもなかなかに大変だが、男として生きることも大変だろう。
そういう意味では、理解できないなりにも同情する。
女は男から性的被害を受けやすい立場なので、男に対して恐怖や警戒心を抱き、いつしかそれが「男性嫌悪」へと発展するケースが少なくない。
私がまさに、そういうタイプだった。
思春期頃から通学途中に痴漢に遭ったりして、男に対する不快感と不信感を募らせた。
彼氏は欲しいけど、男の性欲が怖いし気持ち悪い。
好きな人とのセックスには憧れるものの、男の性欲には何か暴力的なものを感じて、10代の私は男への渇望と恐怖の狭間で揺れ動き、混乱を極めた。
大学を卒業して社会に出ると、当時(1980年代)は「パワハラ」「セクハラ」などという概念が存在しなかったので、会社の上司やら仕事の取引先やらから身体を触られたり露骨に性的なアプローチを受けたりして、一時期は心の底から男が嫌いになった。
そんなことをしない男たちも大勢いたけど、心を許したら急に豹変するタイプもいるので、誰を信用していいのかわからない。
とはいえ、好きな男や恋人は別格。
彼らには性的な関心を持って欲しいし、セックスも愉しみたい。
いつしか私は、男たちを2種類に分けて区別するようになった。
セックスしてもいいタイプと、絶対にしたくないタイプ。
男の側からすると、それは「差別」と感じられたかもしれない。
だって、好きなタイプには触られても怒らないのに、圏外のタイプから触られるとぴしゃりと拒絶するからね。
でも、ちゃんと態度で区別しないと男たちは際限なく厚かましくなる、というのが私の得た教訓だったのだ。
ほんと、すごく嫌な想いをたくさんして来たからね。
言葉や態度ではっきり「NO」と示さないと、とんでもなく不快な勘違いをされるんだ。
中には「NO」と言ったって、「嫌よ嫌よも好きのうち」なんて自分に都合よく解釈して、強引に迫ってくるやつもいるんだもん。
とはいえ、今にして思えば、私のそのような態度に傷つけられた男もきっといたと思う。
女を口説いてぴしゃりと撥ね付けられると、そりゃあいい気持ちはしないよね。
彼らはそれが私の自己防衛だとは知らないから、自分だけが不当に冷淡に扱われたと感じ、人格を否定されたような屈辱感を覚えただろう。
そういう拒絶が何度か重なると、女を口説くことに臆病になるだろうし、思春期の私のように異性に対する渇望と恐怖の狭間で混乱するに違いない。
ある種の男たちが女に対して抱く怒りや不信感は、そういった体験が元になっているのかもしれない。
いわゆる「マノスフィア」「インセル」と呼ばれるような男たちの、女全般に対する激しい憎悪や侮蔑は、彼らが女たちから受けた傷や屈辱を物語っている。
私が男たちを恐れ憎んだように、彼らも女たちを恐れ憎むことで自分を守ることにしたのだ。
そう考えると、男と女は互いの性への無理解から、無駄に傷つけ合ったり憎み合ったりしているような気もする。
老人になったおかげで、私は男たちの性的圏外となったことにホッとし、彼らに対して昔よりもずっと寛大になった。
彼らの痛みを理解し、同情する気になったのだ。
だが、若い女たちにそれを求めるのは無理難題というものだろう。
彼女たちは男たちが傷つこうとも、断固として自分を守らなくてはならないのだから。
それは仕方ないと思ってあげてほしい。
彼女たちだって、男を傷つけたいとは思ってないのだ。
だが、傷つけまいと思って曖昧な態度を取ると、自分が痛い目に遭う。
断ると気の毒だからと思ってデートの誘いを許諾したばかりに、「そっちもその気なんだろ」と勘違いされて強引に迫られたり、最悪のケースではレイプされたりした女友達もいるのよ。
こちらとしては不同意セックスなのだが、「デートに応じたんだから合意だろ」なんて言われたら、「断ったら傷つくかな」などと忖度した自分がバカだったと思うしかない。
そんな経験をしたら、男に対して厳しくなるのも当然でしょ。
人間が傷つけ合うのは当たり前のこと。
むしろ、傷つけ合って初めて見えてくるものもあるの。
私が男たちの恐怖に気づいたのは、デリヘルをやった時だった。
とても短い期間だったので(顔バレしたから仕方なくやめました)、客から酷い扱いを受けたり怖い目に遭った体験はない。
むしろ、私に気を遣ったり機嫌を取ったりする彼らを見て、男に対する見方が変わった。
部屋に入ると、相手が私以上に緊張していることもある。
そうか、怖いのか、と驚いた。
デリヘル嬢は決して相手を拒まないのに、それでも彼らは傷つけられるのを恐れているようだった。
別に非モテタイプってわけでもないし、そこそこ女性とのセックスや恋愛体験はあるんだろうに、いや、あるからこそ、彼らは女が怖いのだ。
女に裏切られたり傷つけられたりしたこともあるだろうから、常に嫌われないよう傷つけないよう努力する習性が身についてしまっている。
「嫌われるのが怖い」……それは、男も女も同じである。
女だって男に嫌われるのが怖い(同性に嫌われるのはもっと怖いけどね)。
男もまた、女に嫌われ拒絶されるのが怖い。
裸になって身体を重ねることは、男にとっても女にとっても、とてもデリケートな行為なのだ。
思えばそれまでだって、図々しく身体を触ってくる男ばかりじゃなかった。
紳士的に振る舞い、丁寧に優しく関係を築き上げる男だって大勢いた。
自分が傷つけられることばかり懸念して身を守るのに必死だったけど、彼らは彼らでとても傷つきやすかったんだ、と、そんな当たり前のことに、デリヘルで初めて思い至った。
あまりにも厚顔無恥なおっさんばかり見てきたので、男という生き物をすっかり誤解していたのだ。
にしても、あのおっさんたちの厚かましさは、いったい何だったんだろう?
未だに謎である。
彼らだって拒絶されて傷ついたことなど山ほどあるだろうに、「なんだかんだ言っても強引に迫ればこっちのもの」なんて思想、どこで学んだんだ?
男と女が理解し合い、傷つけ合わないようになれたら、きっとそれが理想なんだろう。
でも、正直、そんなのは無理だと私は思っている。
男女に限らず、人間は傷つけ合う生き物なのだ。
親は子を傷つけ、子は親を傷つける。
どんなに仲の良い友人同士でも、傷つけてしまうことはいくらでもある。
何故なら、我々はお互いに他者であり、他者というのは基本的に相容れない存在だからだ。
私とまったく同じ人間はいない。
だから、私を完全に理解できる人間など、この世に存在するはずがない。
そんな他者の集まりの中で、軋轢や衝突が起きないはずないじゃないか。
だから我々は、傷つけられることに慣れなければならないのだ。
そりゃ痛い思いは誰だって嫌だけど、誰かに傷つけられた自分だって、知らず知らずのうちに誰かを傷つけているのだよ。
それを知っていれば、自分だけが被害者ではないとわかるはずだ。
我々は常に、被害者であると同時に加害者なのだ。
だから、ね。
傷ついても傷ついても、人と関わることを諦めないで。
だって、我々が他者と関わる意味は、傷つけ合った先にこそ見えて来るんだから。
自分が傷つけられる痛みを経験して初めて、他者の痛みを想像できる人間になれるの。
いろんな痛みを知れば、それだけ、他者の多様な痛みに気づけるようになるのよ。
傷や痛みの経験値は、きっとあなたを強く優しい人間にする。
傷つくのは弱者の証なんかじゃない。
強くなるために、傷つくことが必要なんだ。
身に受けた傷を自分の一部にし、他者への理解に役立てれば、それはいつか自分自身を救うことにも繋がるんだよ。
だって何より、自分を赦せる人間になれるから。
ね、それって一番大事でしょ?
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