書籍出版記念イベント「やめられない」から楽になる わたしたちの作戦会議 イベントレポート(後編)
書籍出版記念イベント「『やめられない』から楽になる わたしたちの作戦会議」のイベントレポート後半。身近な人が「やめられない」に苦しんでいたら、どうすればよいのか。まずは周りが支援につながることの大切さを、登壇者が語る。
公開日:2026/09/08 02:00
2026年7月31日に金子書房から発売された、『「やめられない」をどうするか きみと同じことで悩んでる大人たちの生存戦略』。
著者は精神科医の松本俊彦氏、大学教員の横道誠氏、漫画家の菊池真理子氏、アダルトビデオ監督の二村ヒトシ氏、編集者・ライター・Youtuberのだいまりこ氏、そして編集者・研究者の加藤浩平氏の6人。
8月26日、本書の出版イベント「『やめられない』から楽になる わたしたちの作戦会議」が開催された。イベントでは著者6人が登壇し、ライター・トイアンナ氏がMCを務めた。
本記事では、イベントレポート(後編)をお送りする。
【前編はこちら】
書籍出版記念イベント「やめられない」から楽になる わたしたちの作戦会議 イベントレポート(前編)
身近な人が「やめられない」に苦しんでいたら
続いて、支援に関する議論が交わされた。10代の子どもが、オーバードーズや飲酒といった、友達の「やめられない」に気付いたら、そのようなアプローチを取ればよいのだろうか。
精神科医の松本俊彦氏は、「まず心配な気持ちを伝えてほしい」と答えた。
松本俊彦氏(以下、松本):
その子を助けようとして、細かい話をすると大体こじれる。
大切な友達が飲酒とか市販薬のオーバードーズをしている場合には、まず「あなたのことが心配だ」と伝えること。
そして、もしも頭ごなしに叱責しない大人を知っていたら、その人のところに連れていってあげるのが安全なやり方かなと思っています。
加藤浩平氏:
本人が困っていることに関しては、やっぱり専門家につないだ方がいいと思っています。
ただし、子どもに直接「病院やカウンセリングに行った方がいいよ」と言っても、子どもは思春期だから反発してしまう。
アドバイスしたい気持ちをグッとこらえて、子どもに対しては「通りすがりの単なるオタクなおじさん」というスタンスを貫いています。
その上で保護者の方が必要としていれば、医療やカウンセラーの話をして、つながれるところをつないでいくように意識しています。
「やめられない」当事者だけではなく、まず周りがつながる
アダルトビデオ監督の二村氏は、セックスワーカーと関わった経験から、「問題は当事者だけではないのでは?」と指摘する。
二村ヒトシ氏(以下、二村):
もちろん当事者の治療も必要ですが、家族療法的な視点もありますよね。
お金に困っていないのにセックスワークに就く人は、ご家族の中で何らかの問題を抱えているケースが見受けられる。
まずは病気になっていない大人がカウンセリングを受けるとか、お金と時間がある人は精神分析を受けた方がいいのではないだろうか。
要するに病気が出ていない人ほど、自分の心を考えるべきだと思うんだよね。
子どもを殴る親は、子どもが悪いから殴ったと思っていて、自分のことを「子どもを殴る怒りの依存症」だとは思っていない。
あるいは子どもをワーッと叱るお母さんも、よく街で見かける。でもその態度が、子どもを依存症にさせている可能性がすごく高い。
松本:
子どもが何か問題を起こしたときに、本人を無理くり病院に連れて行くのではなく、まずはそれを問題だと感じた人が相談に行くことが大事です。
依存症は、本人よりも周りが困っていることが多い。だからまず、周りが支援につながることが鉄則ですね。
二村さんの話を聞いていて思ったんだけれど、依存症になる人は優しい人が多いんだよね。
少年院や刑務所などの矯正施設に入っている方たちの中には、覚せい剤を使った経験がある人もいる。でも、全員が依存症になるわけではない。
「依存症のやつは悪い」と言われるけれど、むしろ素直でピュアかもしれないと思うことも実はあるんですよね。
菊池真理子氏:
アルコール依存症だったうちの父親は、すごくいい人だったんですよ。 だから今の話はわかる部分もあります。
あともう一つ、二村さんの話を聞いて思い出したことがあります。
この本の中で、私たちは「あなたは悪くないよ」という言葉を何度も使っています。
私にとっても刺さる言葉ではあったけれど、ずっと自分が悪いと思っている人にはなかなか届かない。「お前はなんて意思の弱い、悪いやつだ」と言われてきて、急に悪くないと言われても飲み込めない。
でもこの本を書いた後で、ある人に話を聞いたら「『あなたは悪くない』という言葉より、『お酒を飲みまくるお父さんが悪いよ』とか『わけのわからないスピリチュアルにお金を払いまくるお母さんが悪いよ』と言われた方が、腑に落ちた」と言っていました。
一人でいること、誰かとつながることの両方が大切
本書では、オタクになる――つまり何かに夢中になれる状態を通して、一人でできるコーピングを持つことの必要性も語られている。著者自身もまた、本書に感銘を受けたようだ。
だいまりこ氏:
本の中で、松本先生は自分一人で秘密の場所を持つことの大切さを打ち明けてくれました。
人とつながる前にまず一人の時間を満たすというのは、私にとって新しい発見でした。
松本先生の言葉を信じて、この1年間はピアノを始めたりジムに通ったりして、一人の時間をまず充実させようとしていました。
今でも「人と一緒にいたい」という気持ちに揺れ動くし、まだまだ検証中ではあるけれど、体は健康になりました。
二村:
よく考えたら僕も昔、松本先生と同じことを言っていたんですね。
僕は『すべてはモテるためである』(イースト・プレス)という本の中で、「人間はオタクにならないとモテない」という話をしています。もう20年ぐらい前の本だけれど、当時としてはすごく斬新なことを言っていた。
オタクであるということは、自分が何を好きなのかを知っていることだと。
僕も孤独が必要だとわかっていたのに、僕の中に寂しがり屋な部分があるから、人と過剰につながろうとしてしまう。
今回の本や今日のお話を通して、それが改めてわかりました。だから僕にとっても、この本はいい本だと思います。
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イベント前後では「やめられない」に悩む当事者やそれを支える人たちからの質問が絶えなかった。
みな同じ悩みを抱えているからか、イベント会場からはどこか温かな連帯感のようなものを感じた。
本書と本イベントの特徴は、精神科医の松本俊彦氏を含めて、著者の全員がそれぞれの「やめられない」を持っている点だ。
著者たちのように、大人でもお酒やタバコに寄りかかって生きる人たちがいる。「やめられない」ながらもより害の少ない対象へシフトしたり、依存してしまう原因と向き合ったりする姿勢に勇気づけられた。
多かれ少なかれ、大人もまた「やめられない」に悩むことはある。寝る前のスマホやお酒の飲み過ぎに、心当たりがある人は多いだろう。
「やめられない」子どもとそれを咎める大人で対立するのではなく、同じ「やめられない」を持つ立場の人間同士として対話をすることの大切さを、今回のイベントに教えていただいた。
