夏休み明け、子どもの様子に「あれ?」と思ったら――行動の奥に目を向けて(後編)
医療機関では、子どもの依存症に対してどのようなアプローチを行うのだろうか?松本先生のお話によると、依存症に対してさまざまな治療の選択肢があるものの、一律に有効な治療法があるわけではないという。後編では、依存症の治療について解説していただいた。
公開日:2026/08/31 02:00
【前編、中編はこちら】
夏休み明け、子どもの様子に「あれ?」と思ったら――行動の奥に目を向けて(前編)
夏休み明け、子どもの様子に「あれ?」と思ったら――行動の奥に目を向けて(中編)
依存症の治療も、子ども一人ひとりの背景に合わせて決めていく
「依存症は医療機関に相談を」という考え方は広まってきたが、受診後にどのような治療を行うのかはあまり知られていない印象がある。
医療機関では子どもにどのようなアプローチを行うのだろうか?
引き続き松本先生にうかがった。
――例えばゲームに依存しているとして、治療はどのようなことをするのでしょうか?
いろんな治療がありますが、その前にまずは子どもと医師の間に信頼関係を築くことから始まります。
ゲームに没頭する背景を聞き出せないと、ルール作りなど具体的な対策に進めないと思うんですよ。
ゲーム障害とかをやってる先生方には、ゲームが大好きな人も多いんですよ。仕事が終わったあとに毎日6時間はやってる、みたいな先生もいます。だから、多くの先生たちは子どもたちとよくゲームの話をしています。
大人たちは、みんなゲームのことを叱ってばかりいるじゃないですか。だからゲームが好きでコミュニケーションを取りにくい子どもたちは、大人と口を利きたくないんですよ。
でもゲームのことで話してくれるっていう大人と出会うことによって、その没頭する背後にはいろいろこう心配なこと、不安なことを打ち明けてくれる。
よくあるのは、その昔神童だった子が有名私立中学に行ったら、凡庸な成績になっちゃうケース。やっぱり努力した分だけ成果が見えるものにしがみついて、自分の自尊心を保とうとする子たちも結構いるんですよね。
まずは外来で本人と寄り添って、本人の気持ちに辿り着くというアプローチをする。あくまで信頼関係を築いてから、「デジタルデトックスしてみない?」みたいに話してみます。
専門病院では、例えば短期間の入院をしながら色んなレクリエーションとか、デジタルデトックスキャンプをしています。あとは病院のデイケアみたいなところに行って、同じ年代の子達とゲーム以外の形で交流して、仲間ができてきたりとか。
するとゲーム自体はやめなくても、ゲームオンリーだった状況が少し軽くなることもあるんですよね。
――デジタルデトックスキャンプとは、どんなことをするのでしょうか?
デジタルデトックスキャンプでは、デジタル端末を持たずに一泊二日とか二泊三日を自然の中で過ごします。
どうせ帰ってきてもまたゲームやるんだけど、時にはそういう体験でゲーム以外の楽しさを知ってもらうことは悪いことじゃないですよね。
――ゲーム以外の世界を知るだけでも、子どもにとってプラスになりそうですね。
病院ごとにいろんなプログラムを試しているけれども、一律で「これが一番いい」というプログラムがあるわけではありません。
大人と違って自助グループが十分に育っているわけでもないので、十代半ばの子たちがそういったグループにつながるのも難しい。
まずはゲームの依存症に詳しくて、若者の気持ちに割と共感する先生のところにつながる。そこで話し合いながら信頼関係を築く。
良くなったり悪くなったりを繰り返しながら気づくと、その昔ほど問題が大きくなくなってる、というような治療法をやってるところがほとんどかなと思いますね。
――カウンセリングや薬物治療を併用されることもあるんでしょうか。
もちろんあります。例えばゲーム障害の子達の中には、神経発達障害の問題を抱える子たちがいるんですよね。
神経発達障害の中でも特にADHDの子達は、ゲームと親和性が高い傾向があります。ADHDに対する治療をすることによって、自分の衝動とか欲求とかのコントロールがしやすくなる子たちがいるのは事実です。
依存症というよりは、その依存症の根本的な原因にもアプローチする。依存症と言っても、1つの治療法にとらわれずに多様な方法を試みています。
――オーバードーズやリストカットの治療についてはいかがでしょうか?
オーバードーズやリストカットについても、やはり十把一絡げに有効な治療法はありません。
特にこれらについては、当事者のグループを作るのが必ずしもいいとは限りません。当事者の子どもたち同士の関わりにも、難しいところがあります。
グループになってくると、リストカットやオーバードーズでお互い競い合ったりすることがあるんですよね。一番ひどくやってる人が、そのグループの中のヒエラルキーの頂点に立ったりとか。そうなると、むしろエスカレートしてしまう場合もあります。
オーバードーズやリストカットについては、まずは主たる支援者との一対一の関係の中で信頼関係をつくりながら、その背景にある問題を解決しなければいけない。
リストカットとかオーバードーズはみんな似たような現象に見えますが、その背後にあるものは十人十色です。
まとめると、ゲーム依存にせよリストカット、オーバードーズにせよ、依存症に対して一律に効果のある治療法はありません。「〇〇療法があります」という言い方はできない。
家庭環境や生い立ちなど、置かれている環境によって子ども一人ひとりに合わせたアプローチを行う必要があります。
――たとえ同じ症状に見える子どもたちがいても、その背景によって適切な治療は一人ひとり異なるのですね。
今回は夏休みに気を付けたい子どもの変化や、保護者をはじめとした大人がとるべき対応、依存症の治療について、教育と診療それぞれの立場からご紹介いただいた。
子どもの様子に「あれ?」と思ったら、まずは行動の背景にある気持ちを知る必要がある。目の前の症状をむやみにとめようとすると、かえって子どもが拠りどころを失ってしまうかもしれない。
普段の日常生活から依存症の治療まで、キーとなるのは特別なことではなく、子どもとの信頼関係になりそうだ。
