私は私以外の何者にもなれない。 だから私は、この唯一無二の「私」を生きていく。「失われた私」を探して(41)
私は欠落と過剰と歪みに満ちた自分を変えたくて仕方なかった。でも自分じゃない自分になろうとすると、ますます苦しくてたまらなかった。そして気づいたの。誇れるような人間じゃないけれど、私が私であり続ける。この自分の魂を守る。それが一番大切なんだって。

公開日:2026/01/05 02:01
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「失われた私」を探して自分を変えたい、と願っていた頃があった。
でも、自分を無理に矯正しようとすると壊れちゃうんだ。
私は、欠落と過剰と歪みに満ちた人間だ。
たとえば、他の人たちは軽々とこなせるような事が、どうしてもできなかったり。
かと思えば、誰よりも過剰な衝動や欲望に振り回されて暴走したり。
若い頃は、そんな自分が嫌で嫌で仕方なくて、なんとか直そうと必死だったわ。
まっすぐな人間になりたかったのよ。
美しく見事な枝に大輪の花や果実を実らせる、そんな素敵な人間にね。
醜く貧相な自分では、ろくな花も咲かせられないし、何も成し遂げられないと思ってた。
そんな人生に価値なんかあるの? って。
常に上から目線で私にダメ出しばかりするような男と結婚したのも、彼が自分を矯正してくれると思ったからだ。
自分に欠落や過剰や歪みがあるのは自覚してたけど、どこがどう間違ってるのかわからなかったので、教え導いてくれる存在を求めたの。
でも、その結婚はあっという間に破綻し、私は矯正も進化もできないまま、ますますボロボロになっただけだった。
他にも数々の失敗を重ねてきたわ。
それは全部、自分の欠落や歪みのせいだと思って、そのたびに自分を激しく憎んだ。
どうして私はまともに生きられないの?
恋をしても、幸せになるどころか、いがみ合ったり傷つけ合ったりして、どんどん醜くなっていく。
仕事に熱中しても、「こんなんじゃダメだ、まだ足りない」と、自分の至らなさばかりが目について、ついには勝手に自滅してしまう。
何をやっても中途半端で、何者にもなれない私。
でも、この欠落さえ埋められれば。
この過剰さを何とか押し込めてしまえれば。
この捻じ曲がった心をまっすぐに矯正できれば。
きっと私は、今とは違う別の自分になれるのに!
でもね、ある時、とうとう気づいたの。
別の自分になるなんて、きっと無理なんだ。
この欠落も過剰も歪みも、ぜーんぶ「私」であり、私はこんな「私」を背負って生きていくしかないんだって。
そうよ、私たちは自分から逃れられない。
こんなデコボコでポンコツな自分を生きていくことこそが、私の人生なんだ。
これまでの私は「自分じゃない人間」になることが目標だった。
でも、そんな自己否定から始まる人生なんて、自分に無理させるだけじゃない?
無理させるから、ますます歪みが大きくなってしまうのよ。
そして、永遠に自分に到達できないの。
誰だって、何かしらの欠落や歪みを抱えてる。
あなたの歪みと私の歪みは違うけど、その歪みこそが、あなたと私の「形」なの。
そして人生とは、おそらく、自分だけの「形」を作っていくことなんだと思う。
どんなに奇妙な形でも、それは、自分にしか作れない「作品」なのよ。
あ、これって、べつに「みんな違って、みんないい」的な話じゃないの。
多様性を受け容れようとか、そんな立派な演説をここでする気はない。
私にとって、人それぞれの「形」は、いいとか悪いとか関係なくて、「みんな違って、それはもう仕方ないんだ」って話。
違いがあることは個性的でいいことかもしれないけど、その一方で、違いがあるからこそ互いに理解し合えない孤独もあるでしょう?
その孤独も含めて、私は「他者とは違う私」を生きてくしかない。
だから、私たちは、一生懸命に自分を生きていけばいいの。
人も羨むような美しい花なんて咲かせられないかもしれないし、ようやく実がなったと思ったらとてつもなく不格好で不味そうな実かもしれない。
でもね、その花も実も、私だけのものよ。
私の欠落や過剰さや、哀しい歪みが産んだ私自身の姿。
人生の終わりに、その花弁や果実を手に取ってつくづく眺めたら、きっと私、その不細工さにがっかりしちゃうわね。
でも、人に見せびらかすために生きてるわけじゃない。
私が私であり続けるために、私は生きてるの。
私が私であり続けること。
それが一番大切なんだって今は思ってる。
私は何のために文章を書いてるんだろう?
昔は時々、そんなことを考えたものだった。
なんか、とてつもなく無駄なことしてるような気がしてね。
書けば書くほど、自分の未熟さや無力さを突きつけられて落ち込むの。
でも、今は答が見つかった。
私は、私であり続けるために書いている。
自分を言語化しないと、たちまち私は虚無の闇に溶けてしまって、何者でもない存在になってしまう気がするのよ。
言葉は、私に輪郭を与えてくれる。
見てください、これが私です。
とても小さくて、いてもいなくてもいいような生き物だけど、それでも苦しんだり悲しんだり怒ったりしながら、そしてたまには幸せな気分になったりもしながら、ささやかな人生を懸命に生きてます。
誇れるような人間じゃないけど、それでも私にとっては唯一無二の自分です。
誰かに踏みにじられていい存在ではないし、私が私として生きていくことを誰にも奪わせる気はありません。
一寸の虫にも五分の魂って言うでしょう?
私にも魂があるんです。
それは私にとって、とても大切なものなんです。
私はたぶん、この自分の魂を必死で守るために生きてるんだと思います。
そして、そのことが、私にほんの少しの力を与えてくれる気がします。
生きてていいんだ、と。
この魂のために、私は私であり続けなければならないんだ、と。
かつては、誰かに愛されることで自分の価値を確認しようとしていた。
誰かに必要とされることで、この世に生きてていいんだと思えた頃もあった。
でも、最終的には「自分」なの。
自分が自分の魂を大切に思ってあげなきゃ、誰に愛されても意味ないの。
自分のことは未だに好きじゃないし、すぐに人を羨んだり僻んだりして、自己評価なんて常に不安定でグラグラと揺れ動いてる。
でも、そんな自分でも大事にしてあげなきゃって思うのよ。
だって、私が私を手放したら、私の魂はどこにも行き場がなくなっちゃうもん。
自分の価値をね、他人の評価や受容に委ねちゃダメよ。
胸を張って自信満々に生きる必要はないけど、自分であり続けることは手放しちゃいけない。
自分を守るために闘ったり、全力で逃げたりしなきゃいけない局面が、人生にはあるんだよ。
そういう修羅場を潜ると、きっと自分の大切さが身に染みてわかるから。
だから、自分のために精一杯生きてください。
お願いします。
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コメント
'私は、欠落と過剰と歪みに満ちた人間だ。'
ねえ、うさぎさん。それでも貴方は以前も今も、いつも根源的な愛とか優しさとか(仰る通り、リスペクトを持ちセンシティブにこれらの言葉を表現したい)を持って私たちに語ってくれている。
'慈悲'と言う言葉がぴったりなのかも知れない。
うさぎさんの言葉で、存在で、救われている人が沢山居る事を思い出して下さい。ありがとう、うさぎさん。
いつも無力感や自分の弱さを痛感して何もかも嫌になることがある中、中村さんのこのエッセイに励まされています。
諭すでもない叱咤するでもない、中村さんのどこか自嘲めいた、けれど優しい言葉に
「ああ、そうか。わたしが感じている不安や悲しさってこういうことなのかも」と共感を覚え、
少し前を向ける気がしてきます。
昔、女という病を読ませていただいてから、すごく久しぶりにうさぎさんをYouTubeでお見かけして、この連載も読ませていただいておりました。
つい最近、かけもちしている単発ワークで偶然ペアになった方がうさぎさんに顔と声がそっくりで親近感!更にその現場での仕事も初めてだった私に色々教えてくれて、比較的キツめの現場だったのに一日が楽に終えられました。そんなことがあったもんで、コメントさせていただいた次第です。
これからも、お喋りきかせてくださいね!
私は私を生きる。夫が依存症になり、私も依存症であり、そして気付きがあり、自分を大切にするという言葉を生まれて初めて実感しています。うさぎさんの文章に目頭が熱くなりました。感謝。
私の思っていること、感じていることをうさぎさんが文字にしてくれている。
私は私ともう闘わないよ。
ありがとうございます。
ほんとにそう思います。よかろうが悪かろうが、私は私でしかないし、無理をしないことが、結局一番自分の力を発揮できる状態なんだろうな、と思います。それでも私は自分自身を出すことに怯えながら、一方で「自分を大切にしてあげてね」と自分に言い聞かせつつ、1日1日過ごしています。
自分の存在価値とはなんだろう?
自分の価値観に照らしてこうじゃなくちゃいけない、そして役に立つ人間じゃなきゃいけない、と思って生きてきました。そんな自分が作った理想像なんかそもそも歪んでいたんだろうし、そんなことできないのに必死でもがいていたんです、だからいつも足りない足りないと思っていました。
自分を認めているだけでよかったし、自分を大切に思ってあげたらよかったのに。
いつも無意識のうちに他人の問題に首を突っ込んでお世話をして人の役に立つ自分になろうとしてました。そうそううまくはいかないし、いつも心の奥で孤独を感じていました。
「自分が自分の魂を大切に思ってあげなきゃ、誰に愛されても意味ないの。」
「私が私を手放したら、私の魂はどこにも行き場がなくなっちゃう」
うさぎさんのこの言葉を自分にしっかり伝えて、自分のために精一杯生きます。
うさぎさん、そしてAddiction Reportのみなさん、ありがとうございます。
うさぎ姐さん、ありがとうございます。「みんな違って、それでもう仕方がないんだ。」この言葉こそ、私が探し求めてたものです!
耳障りの良い言葉は、私の心に響いてくれなくて・・・。私の心はやさぐれていて、素直じゃないから、届かないんだって、そこにも反応して自己否定して。
でも、「もう仕方がないんだ」って。だって、それが私だし、その私は私が認めてあげないと。この言葉に泣けました。言語化してくださって、ありがとうございます。
他人の評価や顔色ばかり気にして生きてきました。自分とは何なのか分からなくなり、毎日が苦しい時もありました。
今、「自分を大切にする」を目標にしています。難しいなと感じますが、中村うさぎさんの言葉を思い出しながら、自分の魂を大切に思ってあげるという意識でやってみたいと思います。
