「命を救われた」と伝えたかった 月乃光司が大槻ケンヂに“推し依存”と回復の話を聞く
アルコール依存症の月乃光司が、還暦を記念して好きな人に会いにいく〈依存症啓発対談〉。第2回の相手は、筋肉少女帯の大槻ケンヂさんです。ロックと依存症の関係とは?

公開日:2026/02/21 02:02
アルコール依存症の月乃光司が、還暦を記念して好きな人に会いにいく〈依存症啓発対談〉。
第2回の相手は、筋肉少女帯の大槻ケンヂさんです。
引きこもりや自殺未遂を繰り返していた若い頃、月乃は大槻さんの詩や音楽に支えられ、生き延びてきました。
前編では、ロックと酒が結びついていた時代の空気や、表現者と依存症の距離、「推し」と依存の境界線について語り合います。
「まずは、お礼を言わせてください」
月乃 今日、第一に話したかったのが、大槻さんに、すごくお礼を言いたくて。
自分が引きこもっていた時とか、一番つらい時、自殺未遂も何回かしていて。
その時に、大槻さんの詩集とか、筋肉少女帯の音楽を聴いて。
なんとか生き延びる楽しみがあった。
それで、生き延びることができた、ということを。
今日は、大槻さんにお礼を言いたくて。
本当にありがとうございます。(深々と礼)
大槻 とんでもないです。はい。
「命を救われた」と言われ慣れている
月乃 大槻さんのファンの方って、そういう方が多いんでしょうか?
大槻 もう、たくさんいますよ。
ぶっちゃけ言われ慣れています。
命を救われたと言ってくださった時には、
「あー、救った!救った!」って言っています。
みうらじゅんさんも、そう言っているそうですね。
月乃そうですか(笑)。
それって、どういうシチュエーションで言われるんでしょうか?
大槻 サイン会とか、ファンミーティングとかでも、しょっちゅう言ってくださるので。
それは、なんていうのかな。
人の夢の話を聞いているような感じで。
当事者にとっては、その人が経験したことではあるけれど、
僕はその人じゃないので、正直、分からないんですよ。
だから、「命を救われた」とか、「ありがたかった」とか、
ファンに言ってもらえると、
「あー、その通り。救った!救った!」と言うようにしています。
詩集と雑誌が、命綱だった
月乃 なるほど(笑)。
今日、持ってきたんですけど、
一番つらかった時の愛読書が、
大槻さんの詩集『リンウッド・テラスの心霊フィルム』(思潮社)でした。
精神科病棟に3回入院したんですけれども、
入院中にも毎日、読み続けていました。

大槻 ありがとうございます。
24歳くらいに出した詩集ですね。
月乃 その少し前に、1年ぐらい、まったく引きこもった時期があって。
フールズメイト増刊「HYP」筋肉少女帯総力完全特集を、日々、読み続けていました。
大槻さんの「詩人のはらわた」という、赤裸々なインタビューが載っている特集雑誌です。
大槻さんは、「アルバム『サーカス団パノラマ島に帰る』は自殺しなかった僕の遺言なんです」
と語っていました。今日、その雑誌も持ってきました。
大槻 すごく、きれいだなぁ。
保存状態、いいですね。
月乃 実は原本じゃなくて、最近、メルカリで買ったんですけど(笑)。
原本は、なぜか最後、私、酔っ払って引きちぎって破り捨てたんです。
すみません。
大槻
いやいや。気にしないでください(笑)。
「この人は、自分と一緒だ」と思ってしまう
月乃 大槻さんのインタビュー「詩人のはらわた」では、
ご自身の内面を話されていて、10代の“大暗黒日記”も掲載されていたんですよね。
「9月8日 ノイローゼになった。9月9日 ノイローゼがなおった」
というところが、一番印象に残っています。
大槻 あぁ、あったなぁ。日記、書いてたなぁ。
月乃 ありがちなファン心理なんですけど、「この人は自分と一緒だ」みたいに思ってしまって。
色のある酒から、透明な酒へ
大槻 その頃、もうお酒に行っていたんですか?
月乃 行ってました。毎日、飲み続けていました。今、考えると、私、23歳ぐらいでアルコール依存症になっていたと思います。
大槻 ちなみに、何を飲んでいたんですか?
月乃 焼酎とか、スピリッツ系ですね。
大槻 聞いたんですけど、だんだん色のあるお酒が飲めなくなってくるって。味が、もうダメで、とにかく透明なほうに行くっていう話を聞いて。
月乃 私も元々はビールが好きだったんですが、飲むと吐きそうになるんですよ。
だんだん、安くて、アルコール度数が高くて、すぐ酔える、色のない蒸留酒に行きました。
ロックと酒が結びついていた時代
大槻 ミュージシャンでも、バンドマンでも、アルコール依存症になった人を何人か知っていて。結構、酒をやめた人が多いです。
月乃 表現者の人って、依存症になりやすいと言われることもありますが、周りにも、そういう方はいらっしゃいましたか?
大槻 いますね。僕らの頃は、「セックス・ドラッグ・ロックンロール」っていうのがあって。
お酒も、ヘベレケになってからがロックだ!みたいな。飲まないと話にならない、みたいな。
昭和の洗脳もあってね。毎晩のように打ち上げをして、朝まで飲んで、っていうのをやっていました。
50過ぎたぐらいから、ちょいちょい「お酒やめた」っていう人が、バンドマンでも結構出てきました。
月乃 なるほど。それはアルコール依存症というより、大量飲酒者だったのかもしれませんね。
ロックをやるなら、酒を飲め
大槻 うちの橘高くん(注1)も、三日酔いぐらいしていたんですよ。二日酔いじゃなくて、三日酔い。
ツアー先とかで、瞳孔が開いたまま、ライブが始まるまで酔いどれていて、ライブが始まるのもキツそうな状態だったんですけど、それも、やめたんですよ。
月乃 今は、全然、まったく酒を飲まないんですか?
大槻 そうですね。飲まないです。そんな感じで、お酒を飲まなくなったバンドマンが何人かいるんですけど、
どうも話を聞いていると、彼らは、そもそもお酒が好きじゃなかった、っていうのが分かってきた。
月乃 そうなんですか。そもそも、飲んだ理由ってどういう感じだったんですか?
大槻 ロックだったから、ですね。「ロックをやるなら飲まなきゃいけない」っていう。そういう意識、洗脳みたいなものが。
月乃 なるほど、ロックですか(笑)。
本当は、もうみんな酒をやめていた
大槻でも、本当は、僕らが飲み始めた頃には、それこそエリック・クラプトンとか、もうお酒をやめてたんじゃないかな。
月乃もうやめていた頃かもしれませんね。エリック・クラプトンさんは、もうバリバリの依存症で、僕らにとっては仲間ですが、酒も薬も断ちましたね。自分で依存症のリハビリセンターを作ったりしていますね。
大槻当時は、まだインターネットがそんなになかったので。英米のロッカーが、もうそんなに飲んでいない、っていう情報が、
伝わってこなかった。だから、「まだみんなヘベレケなんだ」「それに追随しなきゃいけない俺たちは!」って思って、ガンガン飲んでた。
本当に、酒癖の悪い人はいっぱいいました。
でも、そういう人ほど、結構、今は酒をやめていて。「酒、飲まなくても全然大丈夫だよ」とか、「いや、俺、むしろ嫌いだね」とか言って。やっぱり、本当は好きじゃなかったんですよね。酒に飲まれてただけで。
お酒を飲まない方が、むしろ居心地がいい。そういう人が増えてきました。

月乃 無理にロッカーを演じるために、お酒を無理して飲んでいた、みたいな感じなんでしょうか。
大槻 どうも、そうみたいですね。
「ジョギング・プロテイン・ロックンロール」
月乃 最近は、クラプトンもそうですけど、今も長生きして活動を続けているロッカーたちは、みんな健康志向のようですね。
ミック・ジャガーとかも、ものすごく健康に気をつけて運動している、そういうタイプが多いようですね。
「セックス・ドラッグ・ロックンロール」じゃなくて、「ジョギング・プロテイン・ロックンロール」でしょうか(笑)。
大槻 やっぱり、ストレスと、それから、割と時間があると、依存のほうに進んじゃう、という気がしますよね。
生きづらさが先にあるタイプ
月乃 そうですね。依存症は、どんな人でもなる可能性がある、脳の病気ですね。
タイプとしては、私みたいに10代からメンヘラで、生きづらさが先にあると、常に生きていること自体が苦痛なんです。お酒を飲むと苦痛から逃げられる。麻酔薬みたいになる。だから、毎日、お酒を飲まないと、メンタルな痛みに耐えられない。若い依存症の人って、こういうタイプが多いようです。
お酒以外にも、市販薬や処方薬の場合も多いですね。
「変わり種依存」は、あるのか
大槻 依存って、大概はお酒か、性的なものか、ギャンブルとか、薬物とか、だいたいそこに行くんでしょうか?でも、そんなものに依存するのっていう、いわゆる「変わり種依存」って、ないんですか?
月乃 そうですね。「変わり種依存」というか、オンラインカジノは、誰でも依存症になるように作られた、恐ろしいギャンブルですね。他には……今日、大槻さんにちょっと聞きたかったのが、人に対する依存というか、今だったら「推し」って言うじゃないですか。ファンになる、というか。
大槻 ああ、そっちですか。
「推し」は依存になるのか
月乃 私は27歳から酒をやめたんですが、その頃から「推し」の大槻さんに、定期的に大量にファンレターを出していたんですよ。自意識過剰な「週刊・月乃光司」みたいな。自分の書いた詩、小説、日記、漫画を送っていました。ある意味、大槻さんに依存していました。
大槻 読んでいましたよ。月乃さんのことは知っていました。手紙をいただくのは嬉しいです。ただ、手紙をたくさんくださる方は、やっぱり、どこか特徴のある方が多いですね。手紙とか、自分の詩とか、日記を書いて送ってくださる方は、まあ、ガチ勢ですね。
月乃ガチ勢です(笑)。特に返事はなかったので、読んでいただいているか、まったく分からない。大海に石を投げ続けているような気持ちでした。でも、止めることができずに続けていたんです。
初対面の記憶
月乃 大槻さんに初めてお会いしたのは、2006年3月に新宿ロフトプラスワン(注2)で開催された、雨宮処凛さんの出版記念イベントなんです。控室で「月乃光司です……」と挨拶したら、「月乃光司さんっ……」と、大槻さんは怯えたような表情をした気がしたんです。
その時ようやく、「俺は結構、異常ファンと思われているのかも……ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマン(注3)のように……」
と思いました。
大槻 そこまでは思わなかったですよ(笑)。手紙を大量にいただくファンの方を、変わったファンだとは思わないです。
推し依存と、依存症の境界線
月乃 依存と依存症は違いますが、「推し依存」みたいなものが行きすぎると、「依存症」のように治療対象になっていくようです。例えば、過剰な「ホスト推し」とか。あれも、今は治療対象になっています。
大槻 あぁ、なるほど。
脳汁という言葉で説明すると
月乃 ホストに猛烈にお金を使って、生活が破綻して、やめたいと思っても借金を繰り返してしまう。
ホストに会って、ちやほやされると、脳内にドーパミン(注4)と呼ばれる報酬系の脳汁が出て、気持ちよくなります。
大槻脳汁で気持ちよくなるんですね(笑)。
月乃 ちやほやされたとき、ほめられたとき、性的な満足を得ているとき、スリルを感じているとき、脳汁が出て快感を得ます。
それは人間として普通なことですが、コントロールできなくなったときは依存症です。お酒や薬物は、大ざっぱに言えば、化学的に脳汁であるドーパミンをドパドパ出します。
盗むことに、依存する
大槻 他に、もっと変わり種の依存症はありますか?
月乃 窃盗や万引きがあります。物が欲しいのではなくて、窃盗をしている時のスリルでドーパミンが出るんですね。回復のための自助グループ活動も盛んです。他に、盗撮もありますね。
大槻 そうか。下着姿の写真がほしいのではなくて、盗撮するスリルに依存するんですね。
月乃 そうですね。盗撮イコール脳汁で、盗撮がやめられなかったら盗撮依存になります。治療対象になってくると思います。
冒険は、依存症になるのか
大槻 あれは、どうなんですかね。たまにいる、冒険家と呼ばれる冒険好き、冒険依存みたいな人は。冬山の、とんでもないところに登ったり、崖からモモンガみたいな恰好で滑空したりとか、ぶら下がるみたいなことをしたり。本当にたまに、ヘリを呼ぶことになったり。ああいうのって、依存症に入るんですかね?
月乃 冒険依存の人には会ったことがありません。でも、コントロールできなくなって、他の人にも迷惑をかけるレベルで、借金も作って、どう考えてもやめた方がいいのに、やめられないとしたら、治療対象になる可能性もあると思います。
躁と依存の境目
大槻そういう知人、います。ボートで世界を巡る、みたいなことをやっていた人がいて。双極性障害だったようです。躁の時に、そういう行動に出ちゃって。そのまま亡くなったということがありました。
月乃 躁の時に過剰な冒険をするイコール依存症ではないかもしれません。ただし、躁が「依存の入口」になることはあるそうです。ギャンブルでも、かけているときにドーパミンがすごく出るらしいです。それが切れると、またあの興奮を求めて、繰り返してしまう。コントロール喪失した場合は依存症ですね。それは、その人にとって、ギャンブルかもしれませんし、今の話で言えば、冒険だったとしても、おかしくないと思います。
いい依存、悪い依存
大槻 ある一線を越えれば、なんでも依存症になりうるんですかね。さっき思ったのは、周りのバンドマンで、還暦近かったり、
もう還暦を過ぎている人たちが、異様な本数のライブをやっているケースが結構あって。あれは、ライブ依存なんだろうな、って思うこともあって。ちょっとコントロールが利かなくなっているのかな、なんて思うこともありますけど。
でも、そんなに迷惑をかけているわけでもないので、依存症ではないかもしれません。

月乃 そうですね。先ほどの冒険もそうですが、その瞬間に観客も喜んでくれて、生きることのコントロールを喪失しなければ、別に問題ではなく、いい生き方だと思います。
「依存症のせいにするな」という声
大槻 あれはどうなんですか。僕、田代まさしさんに、すごくお世話になっていたことがあって。僕は田代さんが好きなんですけれども。例えば、田代さんに限らずですが、再発して問題を起こしたときに「いや、依存症なんだよ」って言う当事者の人がいるじゃないですか。そういう時に、「依存症のせいにするな」っていう論争、ありますよね。
月乃 ありますね。
自己責任か、病気か
大槻 ホスト狂いにしても、「ただのダメ人間だろう」っていう考えもあるじゃないですか。一方で、「いや、そうじゃなくて、脳生理学的にドーパミンが出てしまって、それによって脳がちょっと壊れている状態だから、仕方ないんだ、病気なんだ」という論争もある。
月乃 ネットとかでも、よくありますよね。田代さんの件でも、書き込みとかで、今言ったような話、よく見ました。
大槻 それって、自己責任なのか、それとも病気だから仕方ないのか。この問題は、今、どのあたりにあるんですか?
病気として理解してほしい
月乃 私は、やっぱり当事者なので、病気である、ということを認めてほしいと思うんですよね。私も精神病院に3回入院していて、断酒と再飲酒を繰り返していたんですよ。周りの期待を、散々裏切りました。
大槻 でも、ネットを見ると、「それを言い訳にするな」っていう声が、必ず出てきますよね。
月乃 私も、よく見ます。でも、やはり病気であって、治療が必要な人なんだ、という認識を持ってもらいたいです。そして、依存症という病気の特徴として、再発を繰り返すことが多いことも、知ってもらいたいです。
回復している姿が、希望になる
月乃 田代まさしさんもそうですし、回復している姿を見せてくれる著名人が、出てきている。それは、当事者として、すごく心強いことだと思っています。
(続く)
注1 橘高くん
筋肉少女帯のギタリスト・橘高文彦。高度な演奏技術と個性的なギタープレイで知られ、バンドの音楽性を支えてきた中心メンバーの一人。
注2 新宿ロフトプラスワン
新宿・歌舞伎町にあるトークライブハウス。サブカルチャーやアングラ文化の発信拠点として知られ、多くの表現者にとって憧れの舞台となっている。
注3 ジョン・レノンを殺害したマーク・チャップマン
1980年、元ビートルズのジョン・レノンを射殺した人物。過剰なファン心理と精神的問題が社会的に議論される象徴的事件として語られている。
注4 ドーパミン
脳内神経伝達物質の一つ。快感や報酬感覚に関与し、依存症ではこの物質の過剰な分泌とそれを求める行動が問題となる。
【大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)】
1982年、ロックバンド「筋肉少年少女隊」を結成。その後、改名し「筋肉少女帯」で1988年にメジャーデビューする。1999年、「特撮」を結成。2006年からは「筋肉少女帯」と「特撮」にて活動。バンド活動のほか、エッセイ、作詞、テレビ、ラジオ、映画など幅広く活動し、作詞では、多くのアーティストに歌詞を提供している。「大槻ケンヂと絶望少女達」、「電車」など、多数のユニットや弾き語りでもLIVE活動を行う。
【月乃光司(つきの・こうじ)】
1965年生まれ。高校入学時より対人恐怖症・醜形恐怖症により不登校となり、通算4年間のひきこもり生活を送る。自殺未遂やアルコール依存症により、精神科病棟に3度入院。27歳で自助グループにつながり、以来、酒を飲まない生き方を続けている。現在は会社員として働くかたわら、「生きづらさ」を抱える人々に向けて、執筆・朗読・イベント運営などを通じてメッセージを発信している。著書に、西原理恵子との共著『お酒についてのマジメな話~アルコール依存症という病気~』(小学館)。心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」代表。ASK依存症予防教育アドバイザー。弁護士会人権賞受賞。
