Addiction Report (アディクションレポート)

「刑務所に入る前にAAの存在を知っていれば…」当事者が回復体験を伝えることの必要性とは

飲酒しない生活を目指す自助グループAA(アルコホーリクス・アノニマス)のメンバーが回復体験を伝える「メッセージ活動」。

いま、刑務所や更生保護施設へメッセージを運ぶメンバーが不足しているという。

矯正・更生保護施設で回復体験を伝えることの必要性とは? AAメンバーと矯正・更生保護施設の担当者らが一堂に会し意見を交わした。

「刑務所に入る前にAAの存在を知っていれば…」当事者が回復体験を伝えることの必要性とは
AAメンバーと矯正・更生保護施設の担当者らが日本各地から参加した

公開日:2026/10/07 02:00

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9月16日、ウェスタ川越で「第3回東関越地域 矯正・更生保護施設パブリックフォーラム~~社会資源としてのAA~」が開催された。会場にはAAのメンバーのほか、少年刑務所や更生保護施設、病院の関係者らなど約50名が集まり、オンラインでも35名が参加した。

イベントには、AAメンバーと矯正・更生保護施設の担当者らが登壇。刑務所などで自らの回復体験を伝える「メッセージ活動」の現状や、AAと矯正・更生保護施設が連携する必要性について、それぞれの立場から語った。

この記事では、イベントの様子を一部抜粋してお届けする。

「私たちにできるのは、救済ではなく、手助け」

AAでは「矯正・更生保護施設委員会」を設け、各地の刑務所や成人矯正医療センター、拘置所、更生保護施設などと関係を築きながら、メッセージを運んだり文通をしたりと活動を続けている。

最初に、刑務所にメッセージを運んでいるAAメンバーによるスピーチが行われた。


女性はまず、プライベートで映画『プリズン・サークル』を観たときの経験を語った。同作は、受刑者同士の対話を通じて罪の原因を探り、更生を促すプログラム「回復共同体(TC)」を取り入れた刑務所を舞台にしたドキュメンタリーだ。

上映後のディスカッションで、彼女の対話相手になったのは、警察官を志す大学生だった。彼女は自分がアルコール依存症の当事者であることを話す前に、彼からこう言われたという。

「罪を犯した人がヘラヘラ笑っているのは許せない」

「グサッときました。私、AAのミーティングでいつもヘラヘラしている人間なので」と彼女は苦笑する。夫からも、「更生した話を美談にされるのはムカつく」と常々言われているという。

「じゃあ私のような人はどうやって生きていけばいいのか、と思いました。でも第三者の目線で考えれば、大学生の彼はその人の罪を見ている、というだけなんですよね。私は、罪を犯した人が、その後の人生をどう生きていくかのほうに目が向いていた。視点が違っただけなんです」

彼女は母子家庭に生まれた。母親はアルコール依存症だった。

「生まれたときから、お酒はすぐそばにありました。私自身も、だんだんとお酒が手に負えなくなっていったんです」

2019年1月に入院先の病院を退院。医療や家族、AAの支えもあって断酒を続けていたが、1年半後に自殺未遂をした。

「酒を飲んで自殺未遂をしたわけじゃないんです。酒をやめれば真人間になれる、穏やかに普通の生活を送れると思っていた。実際、家族のもとに戻れて、子どももいて、夫には『家にいて、普通に生活してくれればいい』と言われていた。それでも生きるのがしんどかったんです。アル中からただ酒を取り上げるだけでは、殺すのと同じなんですよ」

抑うつ状態に陥り、たくさんの薬を服用していた彼女に、転院先の医師はこう告げた。「AAに関わっているなら、AAのプログラムで回復してください」。

そこで向き合ったのが、AAの12ステップ(依存症からの回復を促す12段階のプログラム)だった。

「ステップ1の『アルコールに対して無力で、人生が手に負えなくなったことを認める』はできました。でも、ステップ2でいわれる『健康な心』がどういうものなのか、わかっていなかった。社会で仕事をして、日なたで暮らして、ちゃんと税金を納めていれば健康な心なのかといえば、私はそうではないと思う。依存症者の心には、何を与えても満たされない穴が開いているんです」

お酒をやめるだけでは、その穴は埋まらない。12ステップでは、お酒の問題を認めたその先で、自分自身の考え方や生き方を見つめ直していく。

「『自分は悪くない』と正当化してしまう認知のゆがみを、誰かに強制されるのではなく、自分で整えていく。AAではこれを、お金を払って外部の講師を呼ぶのではなく、当事者が当事者に伝えています。伝える側も、自分が飲まずにいるためにやっていることだから、ウィンウィンの関係なんです。メンバーにとっては当たり前のことですが、外から見るとすごい仕組みなんだと、関係者の方と話すなかで気づきました。そこがAAの社会資源としての価値だと思っています」

とはいえ、そこに至るまでが難しい。矯正・保護施設を出たあとすぐに、自助グループにつながる人はほんの一握りだ。

「メッセージに行くと、『刑務所を出たらすぐグループに行きます』と言う人がいます。でもそれは至難の業。意志だけでやめられるなら、私たちはここにいません。それに出所したら、今度は人間関係やお金、仕事など、彼らにはいろいろな問題が一気に押し寄せるんです」

本人の意志だけでは乗り越えられないからこそ、必要な支援に頼ってほしいと彼女は話す。医療が必要なら医療に、福祉が必要なら福祉に、更生保護が必要ならその制度に。誰もが当たり前に受けられる支援を、当たり前に使うこと。そのうえで、本人がお酒をやめたいと思ったときの選択肢の一つが、AAだという。

「無理やりAAに連れて行ったら、嫌になってしまう。私たちにできるのは、救済ではなく、手助け。本人が自ら選べるように、背中を押すことだけなんです」

酒をやめて7年半。「お酒をやめたからといって、私がやってきたことすべてが許されるわけではない。それはAAのプログラムを通してずっと学んでいます」と話し、スピーチの最後にこう語った。

「警察官はその人の罪を見る。刑務官は受刑者を、保護司は更生の対象者を見ている。じゃあ私たちは何を見ているのか。塀の中にいる仲間に、過去の自分の姿を見ているんだと思います。この人を助けたい、というより、過去の自分を助けたいんだと思います」

ほかのメンバーも「苦しいときに、おかしな奴がいたなと自分を思い出してほしい」「苦しみから解放された自分の姿を見せられたら」と、メッセージ活動にかける思いをそれぞれ語った。

AAが実施した「AAメンバーシップサーベイ(2025)」では、「AAを勧められた人や場所」の設問で「矯正保護関係者」を挙げた回答は1・52パーセント。地域によっても異なるが、刑務所によっては、メッセージを運ぶために面接や履歴書の提出が必要になるという。また、そもそも刑務所に足を踏み入れること自体にハードルを感じるメンバーもいるようだ。

同じ経験をした当事者の言葉だからこそ、心に届く

午後の部では関係者らも登壇。法務省関東矯正管区成人矯正第二課の富澤智史さんは、拘禁刑の導入による変化や、刑務所で行われているアルコール依存回復プログラムなどについて語った。

2025年6月、懲役刑と禁錮刑を一本化した拘禁刑が施行された。背景には再犯率の高さや受刑者の高齢化などがあり、刑罰の種類が変わるのは明治40年の刑法制定以来、初めてとなる。

「受刑者には高齢者や障害のある人も多く、作業内容によっては取り組むのが難しい場合もあります。拘禁刑になってからは、受刑者の特性に応じて、運動機能を高める作業や指先を使う作業、対話能力を高めるプログラムなど、柔軟に行えるようになりました」

導入にあたって、年齢や障害の有無などに基づく24の処遇グループが新設された。心理専門官や福祉専門官、就労専門官などがアセスメントを行い、受刑者の特性を把握したうえで分類するという。

罰を与えることから、立ち直りを支えることへ。更生を重視する方向へと転換したことを強調した。

富澤さんは、認知行動療法をベースにした「アルコール依存回復プログラム」にも触れた。対象となるのは、飲酒の問題が本人の心身の健康に影響を及ぼしている受刑者だ。

プログラムの目的は、ものの捉え方や対人関係、余暇の過ごし方などを見直し、お酒に頼らない考え方や生き方へと変えていくこと。複数人でのグループワーク形式で、1コマ60分、全8コマで構成されている。

1 オリエンテーション

プログラムの目的を理解する。他人の話をしっかりと聞き、否定しないことを約束する

2 なぜお酒を飲みたくなるのか

自分だけではなく、他人の飲酒パターンも知る

3 お酒を飲みたくなったら①

環境的な要因を考える

4 お酒を飲みたくなったら②

自分の感情や体調を含めた、内的な引き金を考える。自己理解の時間になる重要なコマ

5 お酒を飲みたくなるサイン

AAのメンバーを招き、実体験を話してもらう

6 ストレスと飲酒の関係

ストレスをきっかけに飲酒の問題を抱える人が多いため、お酒以外の対処法を考える

7 飲まない生活のための人間関係

AAメンバーとともに振り返りを行う。支援者がいることを認識してもらう

8 出所後を考える

社会に出れば、お酒はいたるところで目に入る。こうした外的要因のリスクをいかに下げるかを考え、お酒を飲まない生活を送るためのスケジュールを立てる。

富澤さんは次のように話す。

「受刑者には、自分自身のことがよくわかっていない人が非常に多いんです。自分の中でどんな問題が起きて犯罪に至ったのか、本人もわかっていない。そのため、このプログラムではまず、自分の考え方や行動のパターンを知ることを目標にしています。どんなときに飲みたくなるのか、そこからどう犯罪に至ってしまうのか。そのうえで、衝動から距離を置くにはどうすればいいのか、酒以外の方法で乗り切る方法はないのかを考えていきます」

「もうひとつ大切にしているのが、AAのメンバーに来ていただき、支援者がいると知ってもらうことです。私たちがいくら共感する姿勢を見せても、彼らの心には届かない。同じ経験をした当事者の言葉だからこそ、心に入っていくんです。実際、『刑務所に来る前にAAの存在を知っていれば』と話す受刑者もいます。家族のもとに戻れる受刑者ばかりではないので、頼る場所がなくなったとき、ふとAAを思い出す人もいる。実際につながる人は多くはないかもしれませんが、AAのメッセージ活動はそうした種を蒔いてくれているのだと感じます」


メッセージが飲酒の問題に気づくきっかけに


次に、更生保護法人 千葉県帰性会で福祉職員を務める大須賀史紀さんが登壇。更生保護施設とは、更生する意欲があっても、引受人となる家族がいなかったり、帰る住まいがなかったりする人が、一定期間身を寄せる場所だ。宿泊や食事の提供に加え、就労支援、健康相談、生活指導、法律相談、貯蓄の指導など、さまざまな支援を受けられる。

更生保護施設は現在、全国に102か所ある。帰性会は千葉県唯一の施設で、定員は23名。若い職員が多く、日ごろから活発に対話が交わされているという。2025年には新施設となり、手足の不自由な人や高齢者も利用しやすいよう、バリアフリー化も進んだそう。

「旧施設は老朽化が進んでいて、暗くどんよりしていました。新施設は明るくて、ミーティングをするにもとてもいい環境」と、大須賀さんは笑顔を見せる。

2025年の入所者のうち、就労した人の就職先は土建関係が10名でもっとも多く、全体の67パーセントを占めた。続いて、サービス系(3名)、運輸系(2名)。このほか無職・年金等は15名だった。退所後の住まいは、就業先が13名でもっとも多く、賃貸住宅(6名)、社会福祉施設(4名)と続く。

AAメンバーを招いたミーティングは、2025年度に月2回のペースで計24回開催された。49名の入所者が参加し、AAからは77名のメッセンジャーが足を運んだという。

AAとの連携の意義について、大須賀さんは次のように語る。

「入所者の中には、自分がアルコール依存症だと気づいていない人もいます。AAのメッセージは、飲酒や薬物の問題に気づくきっかけになる。それに、実体験を聞くことは入所者にとって大きな希望になるんです。涙を浮かべながら話を聞く人もいるほどです。今後はクリスマス会など、メッセージ以外の交流の機会も積極的に増やしていきたいと考えています」

イベントの最後には、関係者がそれぞれ感想を述べた。矯正・更生保護施設の担当者らが口にしたのは、当事者の言葉が持つ力だ。

「当事者ではない自分たちの指導は、なかなか届かない。受刑者から『親父(職員のこと)、やったことないじゃないですか』と言われると、ぐうの音も出ません。当事者の話は腹落ちしやすい。今後も積極的にメッセージを届けてほしい」(関東矯正管区)

「今日、もともと知っているメンバーが回復体験を話す姿を見て、涙が出そうなほど嬉しかった。他の職員にも聞いてもらいたく、刑務所の事務室にもオンラインの音声を流していたので、仕事をしながら聞いていたと思います」(刑務所)

「メンバーの体験談を聞くのが大好きです。大変な思いをしてきた方々に『楽しい』と言うのは恐縮ですが、仕事とは別のところで豊かな気持ちになれる。ただ、職員が強制するのでは意味がありません。『おもろいで、気が向いたら行ってみたら?』くらいの気軽さですすめています」(拘置所)

「若い受刑者が多いので、出所のときは我が子を送り出すような気持ちで『大丈夫かな』と考えてしまいます。私たちは出所後に伴走することはできない。そこに力不足を感じることもありましたが、役割分担だと気持ちを切り替えました。これからは授業の中で、AAをはじめ回復につながる場をできるだけたくさん紹介し、本人が自分に合う先を選べるように努めます」(刑務所)

「矯正担当者が関われるのは、受刑者が施設にいる間だけ。施設内ならある程度の強制力をもってAAを知る機会をつくれますが、社会に出ればそれはできません。だからこそ、施設にいる間にAAのような存在を知ってもらうことが大切です。出所者が困らないような取り組みを続けていきたいと思いました」(関東矯正管区)

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