相談者への薬物勧誘「社会的非難免れない」日本駆け込み寺・元事務局長に懲役2年・執行猶予4年
2026年3月12日、東京地方裁判所は、コカインの所持・使用による麻薬取締法違反の罪に問われた、公益社団法人日本駆け込み寺・元事務局長の田中芳秀被告(44)に対し、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡した。

公開日:2026/03/13 02:24
四宮知彦裁判官は、被告が違法薬物と知りながら使用したことに加え、相談者の女性に薬物を勧めた点について、「社会的非難を免れない」と指摘。一方で、反省の意を示していることなどから執行猶予を付した。
本稿では、一連の裁判で明らかになった事件の経緯と、悪質ホスト問題の支援現場の実態を整理する。
(取材・文:遠山怜)
事件の発端
事件が発覚したのは2025年5月18日。
当時、新宿区を拠点に若者支援を行う公益社団法人・日本駆け込み寺の事務局長だった田中被告は、相談者の女性と一緒にいるところを、パトカーで巡回していた警察官に呼び止められた。様子に不審な点があるとして警察官が職務質問した際、被告の財布からコカイン粉末が発見され、女性とともにその場で逮捕された。
その後、家宅捜索された被告の自宅からコカイン粉末が押収され、尿検査の結果、コカインの使用が確認された。
争点
裁判の主な争点は、警察による職務質問と任意捜査に違法性があったかどうかだった。一方、公判では被告が置かれていた支援活動の環境についても証言がなされた。
被告の主張
初公判で被告は、コカインの使用を認めたうえで、「利用者や関係者の皆様に迷惑をかけた。深く反省し、お詫びします」と述べ、謝罪した。
被告は公判で、ホスト問題や性産業の現場では薬物が出回っていると述べ、相談対応の過程で薬物が身近な存在になっていたと説明した。
また、女性に薬物を勧めた理由について被告は、「相談者はホストに多額の借金を抱え、返済のために性風俗で働くなど精神的に追い詰められていた。処方薬のオーバードーズをして入退院を繰り返していたことから、やめるように説得していた」と説明した。
さらに被告は、「相談者は馴染みの客から違法薬物の使用を勧められていた。性風俗では客に勧められ違法薬物に依存するケースも多い。知らないところで薬物を使うより、自分の見えている範囲の方がいいと思った」と述べた。
一方で弁護側は、職務質問の際、警察官が被告の進行を制止するなど任意捜査の範囲を逸脱したとして、押収されたコカインや尿検査の結果には証拠能力がないと主張していた。
判決
東京地裁は、警察官の発言の一部に不適切な点があったと認めながらも、捜査自体に違法性はないと判断。
押収されたコカインや尿検査の結果について証拠能力を認めた。その上で裁判所はコカインを所持・使用したことに加え、相談者の女性に薬物を勧めたことを事実として認定。
東京地裁は「支援者という立場でありながら違法薬物を使用し、相談者に勧めた点は社会的非難を免れない」と指摘した。
一方で被告は薬物使用を認めていること、反省の意思を示していることなどを考慮し、懲役2年・執行猶予4年の判決を言い渡した。
公判で明らかになった現場の課題
今回の裁判では、悪質ホスト問題の支援現場の実態も明らかになった。
被告によると、相談件数は年間1000件を超え、電話やLINEによる相談は昼夜を問わず寄せられていたという。事務所の対応時間は朝から夕方までだったが、実際には深夜にも相談対応を行うことが多かったと証言している。
被告は公判でコカインを使用した理由について「深夜相談の眠気覚ましだった」と説明した。
悪質ホスト問題
近年、ホストへの恋愛感情につけ込み、女性に高額な売掛金を負わせた上で性風俗で働かせるケースが社会問題となっている。
こうした状況を受け、2025年には風営法が改正され、色恋営業や売掛金回収目的の売春強要などが禁止された。しかし、現場の支援体制は十分とは言えず、支援団体や相談窓口に負担が集中しているとの指摘もある。
支援と依存の境界
今回の事件は、支援者による薬物事件として注目された。しかし公判では、支援者が長時間の相談対応やリソース不足の中で孤立しやすい現実も浮かび上がった。
悪質ホスト問題や市販薬のオーバードーズなど、依存に関わる問題の支援は、強い心理的負担を伴うとされる。支援の現場では、利用者と支援者の距離感や、支援体制のあり方が課題として指摘されている。
今回の事件は、支援者個人の問題として捉えるべきものなのか。それとも、依存や搾取の問題に向き合う支援の現場が抱える、構造的課題を映し出しているのか。
今後、悪質ホスト問題・依存症支援に関わる団体や関係者への取材を通じて、現場の実態をさらに検証していく予定だ。
