Addiction Report (アディクションレポート)

ネット心中をしようと、相手を探す日々〜ODを繰り返した女性が弁護士を目指すまで(中)

市販薬のオーバードーズを繰り返すうちに、ネット心中をしたくなったヤマユウさん。自殺掲示板で心中相手のユミさんと出会うが、ヤマユウさんは生き残ることになった。

ネット心中をしようと、相手を探す日々〜ODを繰り返した女性が弁護士を目指すまで(中)
弁護士を目指して勉強するヤマユウさん

公開日:2026/01/08 22:00

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2019年の秋、市販薬のオーバードーズ(OD)に依存していたヤマユウさん(仮名)は大阪府内にいた。X(旧Twitter)で知り合った大学生のユミさん(仮名、20代)と待ち合わせをしたのだ。当時、「死にたい」という気持ちがピークに達し、憧れていた集団自殺をしようとしていた。

集団自殺に憧れたきっかけは座間事件

小学6年生の頃から「死にたい」と思い、自殺を何度も企てた。高校2年の頃からODで救急搬送を繰り返すようになり、「一生、病院の世話になるのは嫌だ。もう終わらせてしまいたい」と思っていた。

集団自殺に憧れ始めたのは2017年ごろ。神奈川県座間市のアパートで男女9人が殺害された事件が起きた頃だ。この事件では、Twitter(現在のX)で「死にたい」などと呟いていた10代〜30代の男女が、犯人の男と「一緒に死のう」と待ち合わせをした。しかし、男の目的は心中ではなく、ヒモになることや、相手と無理やり性行為をすることだった。男は発覚を避けるために、集まった男女を殺害した。

この事件の被害者の心情と、ヤマユウさんの心情は近かった。「死にたい」気持ちが強まっていくうちに、集団自殺に憧れを持つようになった。「誰か一緒に死のう」と自殺掲示板などで、一緒に死んでくれる人を探していた。

「いろんな自殺サイトにアクセスしました。SNSでも心中相手を見つけていましたが、冷やかしも多かった。“最後にやりたい”というヤリ目(性的目的)もいました。あとは、繋がっても怖くなったのか、突然連絡が取れなくなったりしました。そんな中、ユミさんから『大阪に来れませんか?』というメッセージが届きました。出会うまで2年かかりました」

この頃、ヤマユウさんはインターネットで見つけたカウンセリングのために、時折、大阪へ行っていた。そのカウンセリングで生きづらさの理由が父親からの虐待にあることに気づいていた。このカウンセリングの日に合わせて、ヤマユウさんはユミさんと会う約束をした。

実は、2人ではなく4人で会うはずだった。参加するはずだった他の2人は自殺の方法や時期などで意見が合わず、最終的に2人で会うことになった。掲示板で出会って1週間後のことだった。

ニュースでも取り上げられる「ネット心中」(インターネットの掲示板やSNSで出会った人と一緒に自殺をすること)の取材を、筆者は重ねている。見知らぬ誰かと一緒に死にたい心情を抱えた人も少なくない。

しかし、やりとりしているうちに連絡が取れなくなることもよくあると聞く。なかには意見が合わなかったり、会ったとしても実行には至らないケースもある。ヤマユウさんも、ユミさんと顔を合わせるまで時間がかかっていた。

その日は、午後6時ごろに待ち合わせ、近くの神社へ向かった。

ネット心中をしようとしたことがあるヤマユウさん(撮影:渋井哲也)

「ユミさんとは事前のやりとりで、似たような家庭環境と知り、一緒に逝こうと思っていました。ユミさんも、私と同じように虐待されていました。ずっと以前から『死にたい』と思っていて、大学での人間関係も大変だったようです。ユミさんと会ったとき、『来てくれるとは思わなかった』と言われました。生い立ちの話をして、死ぬ前に話したい相手に電話をかけることになり、ユミさんは彼氏に電話していました。彼氏には止められたようです。私は、話を聞いてくれていた警察官に依存していたので、その人に電話しました」

怖くなってパトカーを呼ぶ。サイレンを鳴らして向かってくる中で

最終的には高いところから2人で飛び降りることになり、場所を探すために周辺を歩いた。鍵がかかっていないマンションの螺旋階段を見つけた。鍵がかかっていたため屋上までは行けず、「階段(の踊り場)でいいや!」となった。最も高いところまで登った時は、午後10時ぐらいになっていた。

「死ぬと決心するまでも時間がかかりました。階段でもユミさんは電話をしていました。周辺に人はいませんでした。市販薬とお酒を飲んで、靴を脱いで揃えました。しかし、私は、螺旋階段から周囲を見ると『高い』と感じ、冷静になってしまいました。私は階段を降りて110番通報し、警察を呼びました」

通報後、パトカーが3〜4台走ってきた。サイレンが聞こえたそのとき、ユミさんは階段から飛び降りた。その光景をヤマユウさんは見た。

「なんで自分は生き残ったのか」との後悔

「ユミさんが落ちてしまったんです…...。警察に行き、事情を聞かれましたが、彼女が飛び降りた時はずっとマンションの下にいましたし、警察と電話でつながっていました。直前に飲んだ薬とお酒は、ユミさんが買ったものです。最終的には“自殺幇助”扱いにはなりませんでした。

ただ、ユミさんが亡くなって、私はさらに心に傷を負いました。近所でも大騒ぎになり、トラウマになりました。生き残った人特有の感情かもしれませんが、『なんで自分は生き残ったのか』という後悔があります。今思えば、なんで『ネット心中』にこだわったんだろう。なんでそんなことしたんだろう。今でも、工事現場で“ドン”と音がすると、あの時のことを思い出します」

生き残った人が感じる強い罪悪感や自責の念は「サバイバーズ・ギルト」と呼ばれる。なぜ、ユミさんを死なせてしまったのか、二人が出会わなければユミさんは死ぬことはなかったのではないか。思いを巡らせた。こうした出来事があっても、ヤマユウさんはODをやめられないでいた。

(続く)

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コメント

25日前

ずっと死にたいという思いを持ちながら生きてきたヤマユウさんの言葉が刺さりました。集団自殺をしようとした過去は想像を絶する傷だと思います。死にたいと願う人たちをどうすれば救えるのか、とても考えさせられる話でした。続きもぜひ読みたいです。

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