児童自立支援施設でのいじめと“共存”のために処方薬に依存〜「『回復』という毒」を出版した風間暁さん(中)
「『回復』という毒」を上梓した風間暁さんが本格的に薬物に依存していくきっかけは、児童自立支援施設に入所してからのいじめだった。苦痛から逃れるために、処方薬をためては大量に飲むようになっていく。
公開日:2026/09/21 22:30
認定非営利法人ASKの理事、風間暁さん(34)は、「『回復』という毒」(日本評論社)の中で、本格的な薬物依存は児童自立支援施設に入所してから始まったと記している。施設内で受けたいじめに耐えるため、薬物に頼るようになったのだ。
警察に補導され、児童相談所に保護された風間さんは、児童自立支援施設に入った。この施設は、いわゆる不良行為をした児童や、生活指導が必要な児童を指導し、自立させることを目的とした施設だ。施設は全寮制。月に一度は、社会生活の練習として敷地外のスーパーで買い物ができた。購入したお菓子は、土日の自由時間にだけ食べられる。風間さんは、お菓子を盗んで食べたと決めつけられ、子供たちからいじめられるようになった。
「それでも大人は助けてくれないので、いじめと共存していくしかない。『なんでだよ』と不満を持っていました。取り寄せたカルテで当時の記録を読むと、『本人はいじめられたと思い込んでいる』というようなことが書かれてありました。私に原因があるみたいな書きぶりです。私よりも先輩の言い分の方が大人に通りやすかったのだと思いますが、少なくとも関係が良好じゃないことは職員たちは認識していたはずです」
施設内いじめが激化。朝起きると服が水浸し。そのまま着る
施設内でのいじめはどんどんひどくなっていく。いじめに遭っても自分が悪いと思い込むようにし、我慢することにした。
「もう現実から逃げたかったんです。二十四時間、いじめられる可能性がある。朝起きてマラソンして、掃除して、登校して、勉強して、帰ってきたら掃除して…という毎日の中でずっといじめに遭い続けて、逃げ場がない。安心できるのは寝ているときだけ。だからいっぱい眠りたい。そう考えるのは自然な気がします」
直接的な暴力はなかった。しかし、嫌がらせはひどかった。
「施設では服は貸与され、12月までは半袖でないといけません。体育着みたいなものとジャージしか着てはいけない。ただ、それが何セットもあるわけじゃない。朝起きるときと寝る前に、自分で布団を敷いて、枕元にそのセットを置いて寝ます。朝起きたら、すぐに着替えないといけないからです。
でも、起きると、服が全部水浸しだったりするんです。11月なのに。当然、冷たいです。でも、他に着替えがない。それを着る以外にない。凍えそうなくらい寒い。しかも、着ると臭い。おそらく、洗面所のモップを洗っている水で濡らしていたのだと思います。それを着ると、『お前、マジ臭えわ』『こっち来るんじゃねーよ』と言われたりします。そういう類のいじめが多かった」
そうしているうちに風間さんは、児童精神科に通うようになる。
「初診は13歳でした。カルテを読むと、分析自体はなかなか鋭いと思います。私が知らないところで母とも会っていたようですが、母のことを『理性的、理知的で落ちついているが、自己愛が強そう』などと書いていました。人をそんな風にジャッジするのは失礼だなと思いつつ、そう書くのもわかると思いました。母っぽい。初診の先生は間違っていなかったと思います」
処方された薬をオーバードーズ。いじめの苦痛から逃れるためだった
2005年10月には、「解離性障害」の診断を受け、向精神薬や睡眠薬を処方された。
「解離性障害の症状で、覚えていないときに先輩の気分を害するようなことを言っていたようです。でも、解離している私には記憶がない。だから、職員から見ると、私が先輩からいじめられるのは、自業自得だったのかもしれません。でも、当の私は、記憶の範囲内では何もしていないので、納得がいかない。今思えば、職員には病気のせいなのだと気づいてほしかったと思います」
しかし、通院してから時間が経つと、今度は意識的に嘘をつくようになっていった。
「半年経つと、意識的に嘘をつくようになりました。眠れているのに、『眠れません』と言って、処方量を増やさせたりしているんです。いじめに耐えるために、オーバードーズ(OD)をしたいから、処方薬をたくさん欲しい。ODを覚えたのは施設の中でした」
受診し始めの時は、薬に頼りたくないと思っていたが、向精神薬などを飲むと「いじめに耐える力」が与えられるのを感じた。この「効果」に惹かれ、薬物に依存するようになっていった。
「向精神薬を飲むと、いじめの苦痛が和らぐわけです。でも、いじめはどんどんひどくなっていく。一方で、向精神薬は飲み続けるうちに耐性がつきます。つまり、効き目が弱くなっていくんです。だから、量を増やさないと効かなくなっていきます。一生、クレッシェンド(どんどん増えていく)なわけですよね。だから、まとめて飲んでしまう」
処方薬のなかで、最も依存をしたのは非定型抗精神病薬だった。
「ラムネみたいで舌に乗せると甘くて、一瞬で溶けるのが出たばかりだったんです。頓服で処方してもらいました。この薬はすぐに効くので、ハマりました。最高だなと思いました。『今、辛い』『今、どうにか逃れたい』と思うときに、需要に応えてくれる。今では使われなくなったような薬も結構、処方されていましたね。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬なども処方されていました。睡眠薬をお酒で飲むようになったのは、施設を出てからだったかもしれません」
施設を出ると、処方薬にさらに依存。違法薬物にも手をだす
施設を出る頃には何軒も病院を渡り歩いて処方薬を大量に手に入れる「ドクター・ショッピング」をするようになったりした。だが、保険証を使うと、親にバレる。次第に、違法に販売するプッシャーから買うようになった。
「未成年で保険証を使うと、親にばれてしまう。プッシャーは、虚偽の申告で精神科に行って薬を処方されているか、医療機関が流しているのでしょうね。ネット(の薬物売買の掲示板など)も見ていましたけど、買ったことはないです。全部、リアルで買いました。10代はほぼ、シラフで過ごしていませんでした」
この頃は一つの場所に住むこともせず、いろんな人の家を泊まり歩いた。いわば、ホームレス状態だった。
「あの頃は行くところはいっぱいあったし、(定住先がないことを)気にしてもいなかったですね。道で寝ることも、雀荘で徹夜することもあったし、二十四時間営業のファミレスが当時はありましたから。居酒屋やクラブにも入れました」
その頃、依存症を自覚していたわけではない。しかし薬物の過量摂取は、体調にも影響を与え始めていた。
「施設を出た後にODを繰り返したこともあり、ジストニア(運動異常症、自分の意思とは関係なく筋肉が緊張するような病気)が止まらなかったんですよ。目がずっと上を向いて、焦点が合わせられない。多分、神経に影響が出ていたと思うんですけど、生活しにくいんです。自傷していたし、死にたいと慢性的に思っていたから、不便でした。シンプルに目の裏も痛かった。
薬を使おうとしても、目が上を見ているから何にもできないんですよ。鼻スニフ(※)するために、(錠剤を)砕きたくても砕けない。注射器を使おうとしても無理じゃないですか。何にもできない。だから酒を手当たり次第に飲むしかない。施設を出た後は、毎日、こんな感じでした。でも、別の薬を飲むと治りました。
※粉状にした薬物を鼻から吸い込んで摂取すること
いろんな薬を試し、自分で人体実験をしていました。最初は訳も分からず、いろんな薬を一緒に使っていました。でも、ある症状が出たら、その症状を止めるのに、別の薬を試す。『こういう苦痛には、この薬で和らげる』という、自分なりの対処をしていました。自分トリセツです。人には絶対勧めないけど…」
東日本大震災前に、自殺を図り、救急搬送される
薬物使用は、人間関係も壊した。友人・知人に昼夜問わず電話をして、鬱陶しがられもした。
「カタギの仕事に就く友達に、明け方電話して起こし、『なんか仕事ない?』と聞いたりしていました。『1万でもいいから貸してくんない?』とかダルい電話するようになっていました。そんなことをしているうちに、友達から距離を置かれるようになっていったんです」
「それでますます薬の量が増えていきます。切れ目なく使う必要があるので、お金が必要になる。そのため、動きが派手になるんです。入手しないといけないので焦っていましたし、死のうと思うこともありました。とりあえず一発薬を打ってから考えようとして、薬を使うと最悪の状態になり、負のループに陥ります。バランスを崩して、ダメになっていきました」
そんな状態が続く中、2011年2月28日、ついに自殺を図る。違法薬物も合法薬物も摂取して倒れ、救急搬送された。しばらくの間、意識がなかったため、東日本大震災の発生に気づくこともなかった。

(つづく)
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コメント
壮絶な経験を振り返り、自分の気持ちを含めて受け入れ、分析した風間さんが、本当にすごい。さまざまな事が複雑に絡み合い、不健康な循環を生んでいくのだろうと予測がつくけれど、本人が望む形で不健康な循環を断ち切るのは並大抵では出来ない。救いになるのは、やはり人との関わりなのだろうか。本も読んでみたいと思います。
