「ダメなやつだと思われたくない恐れが常にあった」 人気アナウンサーを投機的な投資に導いた心の穴
アナウンサーとなり、スポーツ実況というやりがいのある仕事ができていた江田亮さん。しかし、「ダメなやつだと思われたくない」という恐れから、労働組合の金を横領してまで、自己資金を超える投資にハマり込んでいきます。

公開日:2026/02/25 02:03
投資にハマって労働組合の金を4000万横領し、仕事も家族も失った経験があるフリーアナウンサーの江田亮さん(36)。
やりがいのある仕事につき、家族もでき、順風満帆な人生だったはずだ。
だが、「ダメなやつだと思われたくない」という恐れから、投機的な投資にハマり込んでしまう。
3回連載の2回目。
頑張って努力すればなんでもできるという過信
——ギャンブルなんて儲からないと思っていたのに、投機的な投資にハマってしまったわけですね。これまでの成功体験が後押ししたのでしょうか?
それは絶対あると思います。特に大学受験の成功体験は、自分の中でもすごく大きかった。現役時代は偏差値32ぐらいしかなかったんです。それが浪人して頑張って1年ぐらいで73になって、早稲田大に受かった。さらにアナウンサーになりたいと3年間頑張って、アナウンサーにもなれた。
頑張って努力すれば、なんだってできるとその時は本当に思っていました。実は今でもそう思っています。しかも投資は、稼いで成功している人がいるから、同じように頑張れば近づけるはずだと思いました。
投資では結局、成功しなかったのですが、過去の成功体験でできるだろうと過信してしまった。あまりできなかった時のことは考えていませんでしたね。
「ダメなやつだと思われたくない」という恐れ
——以前、自己肯定感が低いし、「本当の自分を知られてはダメだ」という意識が強いと語っていましたが、「頑張れば自分を高みに引き上げられる」という自信は、その自信のなさの裏返しみたいなものなんですかね?
僕の中では二つの評価軸があるんです。自分の中の軸と、人に見られている自分の軸と。
自分の中で信じている部分はあるのだけど、人から見たらどうかという不安がすごくあるんです。別によく見られたいわけではないんですよ。後輩たちに奢るのも、よく見られたいからではなくて、奢らないことで「こいつ、奢ってくれないんだ」と思われるのが嫌なんです。
——奢らなくても、誰もそんなこと思わないのに。
そうなんですよ。でも悪く見られたくない気持ちが強い。今、依存症からの回復のための12ステッププログラムをやっているのですが、自分のこれまでの人生の棚卸しをした時に、自分のベースにある思いは全てそんな、人にダメな人と思われるかもしれないという「恐れ」なんです。
ダメなやつだと思われたくない。能力がないやつだと思われたくない。よく見られたいわけではなくて、マイナスに思われたくないんです。それが異常に強い。みんなそうなんじゃないかと思っていたんですが、これは普通じゃないらしいと最近気づきました。
——能力も高いし、一緒に飲んで楽しいからみんな来るのでしょうに、なぜそう思っちゃうんでしょうね。
よくわからないのですが、今でも女性や後輩には割り勘ができないんですよ。相手にもよりますが、奢ってもらいそうになると「出します」と言ってしまう。割り勘が怖い。この気持ちはすぐには取り払えないと思います。
——ケチだと思われたくないというのはあるとして、ダメなやつと思われたくない、能力が低いと思われたくないという気持ちが異常に強いのはどこから来ているのだと思いますか?
どこにきっかけがあったのかははっきりしないのですが、高校の野球部の時に、ダメだと思われたら使ってもらえないというプレッシャーが強くありました。怒られたくないんです。でも結構怒られる方でした。
家でも、小さい頃からしょっちゅう怒られていました。勉強しろとか、家の中での行動とか、両親はどちらも厳しかったです。だから防御本能かもしれません。怒られるのって、やっぱりダメだからじゃないですか。褒められたいわけではなく、怒られたくなかった。
その怒られたくない、という気持ちがねじれて、ダメなやつと裏で思われたくなかったのかなと今では思います。だからダメだと思われないためにお金は出しておこうとかね。
それが良かったのかどうかはわかりませんが、僕が問題を起こした後、悪い記事はフライデーしか出なかったんです。ああいう記事は一つ出ると、「こういうこともあった」「ああいうこともあった」と同僚から色々証言が出てくると思うのですが、それがなかった。
そういう意味では「調子こいた嫌な先輩」とは見られていなかったんじゃないかと思います。
借金してFXに投資
——最初はFXに投資をしたんですよね?
なんでFXにしたのかもよく覚えていないのですが、これがいけなかったんだと思います。FXってすぐに結果が出るんですよ。ギャンブル性が高いから、一ヶ月であっという間に400万円が溶けてしまった。いきなりです。
お金を増やそうと思って始めたのに、増やすための種銭も無いので、最初から借金してスタートしたんです。銀行のカードローンでポンと貸してくれました。信用情報が綺麗でしたし、勤めていたCBCは信用のある会社だし、稼いでいたからです。

だからポンと400万円借りて、450万円儲けたら返せるだろうと思っていたのに、あっという間に溶けましたね。
——それが最初の失敗だったんですね。でもそこで止めようとは思わなかった。
その時は、さすがにへこみました。でも、返せたんですよ。人生が狂うほどの額じゃなかった。普通に返して、さすがに痛い目を見たので、そこからはしばらくやらずに普通に生活して、結婚もしました。29歳ぐらいの時です。
——それこそ自分を飾らずに付き合えた女性だったんですよね?
同期の他局のアナウンサーでした。でも飾らずにだったのかはわからない。最初の400万を溶かした時に任意整理をして、それで返したんです。任意整理すると、返してから5年間ブラックリストに載る。
だから、結婚して、家を買おうとなった時に、ローンが通らないと思ったんです。そこで初めて、投資に失敗したことを元妻に言いました。
——その時、なんと言われましたか?
怒られた記憶はありません。住宅ローンは元妻の信用で借りられたんです。
——そこでは大問題にならなかったわけですね。
そうです。でも結婚して二人の生活になると、お金がだんだん溜まっていきますよね。ローンも二人で支払うわけだし、家に妻がいるから外で飲む回数も減る。だんだんお金が貯まると、これが依存症だと思うのですが、また増やしたいと思うわけです。
でもその時は、一度失敗しているので、インデックス投資を始めたんです。でもそんなにすぐには増えないですよね。時間をかけて増やしていくものですから。でもその時は「全然増えないな」と思ったんですね。
再び、投機的な投資にハマって、組合から横領も
——そこでまた、投機的な投資を始めてしまうのですね。
その投資の顛末は読売新聞の記事を読んでくれた方が正確だと思います。全部口座記録を出して話したことなので。
——このあたりから組合の金を横領しては、投資して、戻すという操作を繰り返すことになるんですね。投資信託だけだったのが、保証金を預けて自己資金以上に取引を行う「信用取引」で個別株にも手を出していく。
石炭輸入会社だったのですが、原発の先行きが不透明なので、火力発電に使われる石炭に需要があるというネットの投資インフルエンサーの言葉を信じてしまったんです。利益が出たと思ったら、大きく値下がりする。ジェットコースター状態なのですが、この株の売買にこだわってしまった。
最終的には勝つ奇跡が起きましたけれども、それも、自己資金だけでは続けられていなかった。組合のお金に手を出すところでやはりおかしいです。結局、依存症だなと思うのは、もっと欲しい、もっと欲しいと、ずっとお金に捉われているわけです。
僕は結局、依存症の回復施設に入所もしていませんし、自助グループに通ったり、回復プログラムを受けたりするだけで回復しているというのは、まだ症状が浅い方だとは思います。でも当時の状態を思い返せば、一度踏んだアクセルを離せないし、時間が経てばまたやりたくなる。やったらもう止まらない、という意味では完全な依存症だと思います。
——その個別株の取引きにハマっている最中、仕事中も相場から目が離せなくなったというエピソードは怖いですね。
もう本当に辛いんです。実況中継のCMの間も相場を見ていたと明かすと、ファンからはショックだと言われますが、どうしても気になってしまう。相場を見てもどうこうできるわけではないんですよ。実況している間は目の前の試合に集中しているから忘れられるのですが、終わった瞬間に気になる。もう気になって、気になって仕方ないんです。
トイレにもよく駆け込んで見ていました。アナウンサーはスタジオに入ったらスマホはいじれませんけれども、それ以外の時間は自由です。だから色々な時間帯で、ちょっと席を抜けていようが誰も気づかない。
——当時、その状態は自分でもおかしいとは気づかなかったですか?
今考えたら完全におかしいのですが、当時はあまりおかしいとは思っていなかったと思います。ほとんどのギャンブラーはそんなふうに思考が巡らない。上がっているのか、下がっているのか、勝っているのか、負けているのかしか興味がない。だからあの頃は完全にギャンブル依存症の心理だったと思います。
経費にゆるい環境で、横領のハードルが下がる
——それにしても、組織の金に最初に手をつける時はハードルは高かったはずです。組合の財務部長だったそうですが、最初の罪悪感をどう乗り越えてしまったんですか?
当初は組合の経費はほとんど使わなかったんです。でも、組合の一部の人の中で、「少しくらい使ってもいいよね」という風潮がありました。打ち合わせと称した飲み会が増えていった。私も最初に領収書を切ったのは2万円くらいの飲み代だったかと思いますが、そこから「会議費」が異常に増えていったんです。
最初の心理的なハードルを越えたのは、そこだと思います。横領するときは、自分を正当化する瞬間がきますが、「みんなやっているんだからいいじゃん」という感じでした。

それが2年ぐらい続き、問題の個別株の投資は最後の一ヶ月ぐらいのことです。2年もやっていると感覚が麻痺していき、金額も大きくなっていきました。自己正当化も「戻しておけばいいだろう」と、どんどんおかしくなっていきました。「同じ額を戻しておけば、減ってなければいいんだ」と思い込む。
後で聞いたのですが、知性や学歴が高い人が横領をなぜするかというと、自己正当化する能力もものすごく高いからだそうです。自分を納得させる論理を巧妙に作り、自分を騙すことが上手くなる。これは依存症だけの問題ではないですが、そういう問題が複合的に重なったのだと思います。
だからこそ、僕はバレて良かった。最終的にたまたま損失が出ないで終わったので、いわゆる「被害額」というものは出ませんでした。だからもしそこでバレてなかったとしたら、まだアナウンサーをやっていたでしょうし、離婚もしていなかったでしょうし、名古屋にも住んでいたでしょう。
でも、絶対にまたやったと思います。そして、会社に対してなのか、家族に対してなのか分かりませんが、今度は取り返しのつかないことをやっていたと思います。
横領した金を戻し、通帳も変えて隠そうとしたが……
——でも一応、隠そうとしたのですよね?
最終的には、投資額の倍ぐらいの儲けが出たんです。でも横領した金3200万円ぐらいを口座に戻そうとしても、簡単には戻せない。3200万円の現金を、窓口に持っていったら流石におかしいですよね。一方、ATMで戻す時は50万円単位でしか戻せない。僕はもうせっせと50万円ずつ戻しました。
ゆうちょ銀行だと1回100万円、1日1000万円まで引き出せるんですよ。1回全部ゆうちょに移して、早く戻したかったから、自宅の前のゆうちょでせっせとおろした。そうしたらおろしすぎてそのATMの機械から1万円札が無くなったんです。それでまた場所を変えておろした。50万円ずつ、3200万円戻そうとすると何回戻すんだという話です。名古屋駅前の大名古屋ビルヂングという大きいビルにはATMがたくさん並んでいるので、誰かが一人長く使っていてもそんなに気にならない。でもその時は流石に「自分は何をしているんだろう」と思いました。
とにかく早く戻したい、でもそれで別にチャラになるわけではない。楽しくないし、こんな思いからは早く逃れたい。投資自体を早くやめたいし、一喜一憂するのも辛かったし、夜はアメリカのダウが、昼は日本の市場が気になるから全然寝られない。2週間ぐらい頭が焼けそうで辛かったです。
そうやって、やっと返したんですが、通帳の記録がやっぱりどうしようもなくなっちゃうんです。それで通帳も作り直しました。
——全部戻してからも2700万円ぐらいの金が残ったわけですが、それで手を引こうとは思わなかったのですか?
最初はそう思っていました。だからNISAに入れていたのですが、やはりおかしいのは、そこからまたやるんです。そして結局ほとんど溶かしました。やはり依存症なんです。この話をするとみんな典型的な依存症だと言いますし、僕もそう思います。間が空くとまたやりたくなる。そしてとんでもなく負けがこむまでやめられないんです。
周りには気づかれず
——家族や周りはそんなてんやわんやしている江田さんに気づかなかったんですか?
気づいていなかったと思います。ギャンブル依存症の人は、普通の人のように擬態するのが上手いですから。でももう脳は焼き切れそうでした。
10年もやっていると、周りから気づかれないクオリティーの仕事はなんとかできてしまいます。でも今振り返れば、100%の力は出しきれていなかった。
今となっては笑い話ですが、当時、夕方のニュース番組で、ロシアがウクライナ侵攻の最中で、核を撃つか撃たないかという緊張状態に陥っていたのですが、プーチン大統領の演説を伝えた時の話です。もちろん世界平和のために撃ってほしくないし、そういう姿勢で伝えるのですが、僕だけは「核なんか撃ったら、市場が大変なことになって株価がどれだけ下がるんだ」と心の中で心配していました。みんなとは違う思考で、「撃つな」と念じていましたね。
妻は黙って聞いていた
——色々隠蔽工作もしたけれど、ある日、組合の執行委員長と顧問弁護士さんに呼び出されてバレたことがわかるわけですね。
「これ、どういうことかわかりますよね」と銀行の記録を見せられました。1回、ちょっととぼけてみせたのですが、ダメでしたね。認めて全て説明しました。
午後7時に番組が終わって、反省会を終えて、メイクを落として午後7時半には会社を出られるはずが、その日はその面談で午後9時半頃まで会社にいました。会社を出る時に、連絡なしに帰ってこないのを心配した元妻から、スマホにたくさん不在着信があるのに気づきました。
すぐに帰れば帰れる距離なんですが、なかなか帰れませんでした。彼女に言わなくちゃいけない。けれども悪いことがバレて家庭崩壊すると思うと、死ぬほど辛かった。公園で1時間ぐらい時間を潰しながら「なんて言おう」と思っていました。

今思い出してもしんどいです。今でもあの光景はきつい。
妻は黙って聞いていました。驚いていた感じです。だって夢にも思っていなかったでしょうから。信頼していたのに、欺かれたと思ったでしょう。
(続く)
【江田亮(えだ・りょう)】フリーアナウンサー
1989年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学卒業後、2013年にCBCテレビへ入社。プロ野球、競馬、ボクシングなど200試合以上のスポーツ実況を経験し、TBS系列「アノンシスト賞」を2年連続受賞するなど、技術と実績を兼ね備えたアナウンサーとして活躍。
2022年、労働組合費の横領により同局を退社。退社後、自身の過ちの背景に「ギャンブル依存症」があったことを自ら公表した。現在は回復を続けながら、フリーアナウンサーとして再始動。自身の経験を隠すことなく共有し、ギャンブル依存症が人生に及ぼすリアルな実態や、社会的な問題について伝える活動を通し「依存症者への間違った偏見と正しい知識」を届けている。
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